それから部屋を出たオレは、続きと言わんばかりに話をされる。


『どうだ。月雪をここまで追い詰めた犯人を知って、お前はどうする』

『……追い詰めたも何も、月雪は何かに縋らなければ何もできなかった。遅かれ早かれ潰れてましたよ』


 そうだ。完全に潰れて、なくなってしまった方がよかったのに……。


『残念だったなあ目をつけられて。でも、気になるだろう? あいつのこと』

『……どうしてあんなことをしているのか。何故できるのか。もう一人とは一体何なのか。あの鋭い雰囲気や赤い瞳は一体何なのか。それは気になります』

『ほう』

『私には、彼女のことを知る権利がある』

『……そうだな』

『きちんと知った上で引き受けます。彼女を監視するかどうかは、それからだ』

『いいだろう』

『失礼します。こんなところにいたら気分が悪い』

『お前は、どうやってあいつを知る気だ』

『直接会って話をすれば十分でしょう』

『残念だが、それはできない相談だ』

『これは私の権利だ。あなたにとやかく言われる筋合いはありません』

『お前がここの下に付いている人間だということは忘れるなよ』


 人の口から、こんなにも低いおどろおどろしい声が出てくるというのか。


『知るというなら監視で知れ。あいつがどういう人間なのか。お前はまだ、あいつには接触させん』

『……さっき会ったではないですか』

『あいつにはな。あいつの仕事部屋、それから別邸の方にカメラを仕掛けている。それを見て知りなさい』

『そんなことできるわけが』

『それ以外の方法など認めん。精々知ることだな。あいつの本当の姿を。……ふふふっははははは!!』


 そう言い残し、そいつはオレを残して部屋を出て行った。


『……一体、なんだと言うんだ……』


 彼女のことを知らないといけない。でも、どこからどう見たって、彼女よりも道明寺が悪いじゃないか。


『でも、知るにはその方法しか許されない……』


 何故、酷いことをされたにも関わらずにここにいるのか。どうしてそんなことをしているのか。ちゃんと知らないと、オレは動けない。


『……別に、月雪を潰したのが本当に彼女だとしても、オレは恨んだりなんてしない』


 逆にお礼を言いたいくらいだ。両親には申し訳ないけれど、愚かな会社を背負うくらいなら、縁を切ってオレはただのレンとして生きていきたかったから。


『毎日のように金、金と言ってるような場所、吐き気がする……』


 でも、消えるとなると話が別だ。
 月雪ではなくても、彼らはオレの両親だ。それを、オレの行動一つで消していいわけがない。


『オレが、今できることは……』


 彼女のことを、知ることだと思った。彼女を知れば、本当の悪を知れると思った。


『子どものオレが、できることなんて……』


 何もない。何もないけど、……でも。そうする他に、オレはできない。


『……すみ、ませんっ……』


 名も知らない、綺麗で儚い少女。
 監視するかどうか決めるのは、彼女を知ってから決めるなんて。そんなの、ただの言い訳で。


『オレはもう。この道しか。進めないんです……』


 話を持ちかけられた時点で、自分に逃げ場などない。こうすることでしか、自分の大切な人たちを守れなかった。