にやりと、目の前の男はオレの反応を楽しそうに見ていた。


『残念だったな。お前が唯一頼れる警察も承知の上』

『――――』


 もう、言葉が出なかった。


『知っていても尚、こうしてここを野放しにしている。お前がしようとしていることは無意味だ』

『……っ、でも! 全員がそうではないはずです!』

『そうかもしれんな。でも、そんなことを知っている奴がいたところで、それを警察が知ればどうなると思う?』

『え? ど、どうなる……?』

『事情が漏れてしまわないように、お前のことを始末するだろうな』

『……!!』

『ああ。それから、子どものようなお前が知っているとあれば、きっとその親たちも知っていると思うだろう。そうすれば、月雪はもう本当に消えるかもしれんな』

『……っ、そんなの……』

『お前の味方など誰もいない。お前は、道明寺の指示に従うしかない』

『……何を。すればいいんですか』

『利口だな。お前が、お前の家族が、社員が助かる道など、一つしかない』

『何をすれば。……私たちは、消えずに済むんですか!』


 悔しかった。こんな奴らに縋ることしかできないことが。
 ……悔し、かった。何も。両親でさえ助けられない自分が。


『そんな顔をするな』

『……なにを……』


 そんな言葉をかけてくるが、やっぱり目の前のこいつは愉しそうに嗤うだけだ。


『きっと、お前も進んでしてくれるだろう』

『……どういう、ことですか』


 そう言ったら、目の前のこいつは、ある写真をオレに見せてきた。


『お前には、中学から桜に通ってもらう』

『……何故ですか』


 月雪と言えど、柊に頼りっぱなしであそこに通えるほどの金など到底無かった。だからオレは、桜でも百合でもない、普通の小学校に通っていた。


『金の心配などいらん。ここが工面してやろう』

『……何故そこまでして、私をそこへ通わせようとするんですか』


 この写真の、今にも消えていきそうな。儚くそして綺麗な少女と、何か関係があるのか。


『お前には、桜でそいつの監視を頼むこととする』

『……どういうことでしょうか』

『家では、まあ部屋以外のところに監視をつけているから、あいつが何をしているのかなど筒抜けだが』

『(……監視をつける? それに、家ってことは、この子は道明寺の子……?)』

『流石に学校で何をしでかすかわからんからな。随時報告しろ』

『……何を報告するんでしょうか』

『そいつが、家の方針に反することをしていないかどうかだ』

『……方針?』

『こいつには、家のために全てを捧げてもらうからな。親しいものなどいらん。少しでもこいつが、家に背くようなことがあれば報告しろ』

『……もし、彼女がそんなことをすればどうなるんです』

『そうだな。まだわからないようなら、その親しくなった相手を消すことにしよう』

『……! 消すって。正気ですか……!?』

『もちろんだ。すでに一度している』

『……!?』

『だから、『まだわからないようなら』と言ったのだ。わからないようなら何度でも。逃げ場などないと示してやればいい』

『(下衆野郎が……ッ)』