すべてはあの花のために❾


『それじゃあ、俺が知りたい情報を言うね』

「え」

『俺が知りたいのはねー』

「いやいや、シランさん。関わりたくないんだったら、そんなの言う必要ないですよ。この話はもうここで終わり。今の話も、無かったことにしてください」

『……本当に、それでいいのかい?』

「え?」


 そう言ったら、電話の向こうでクスッと笑われてしまった。……なんだか振り回されている。


『言っただろう? 俺が嫌いなのは、道明寺だと』

「え。……はい。そうですね」

『だから、道明寺にはもう関わりたくないんだって』

「もしかして、シランさん……」

『秋蘭が俺に紹介したい女の子は、どうやら俺のことを、俺らのことを助けてくれたらしくて。秋蘭が大好きで大好きでしょうがないみたいで、どうしてもその子が欲しいって言ってるんだよねー』

「え」

『そんな彼女を紹介してくれるんだから、俺もちゃんとしないとね!』

「彼女じゃねえよ」

『え……。ひ、日向くん……?』

「なんですか」

『か、彼女っていうのは冗談だからね……?』

「わかってますよ。ふざけないでくださいよ」

『はい。すみません……』

「……シランさんは、あいつのこともそこまでご存じなんですね」

『と言っても、道明寺ではない(、、、、、、、)ってことぐらいだよ』

「……十分です。それでも」


 ……なんだ。あなたはそれを、知っているんですね。


『昔、一度だけ。今の父親に連れられて、皇のパーティーに来たことがあるんだ』

「え? じゃあ、アキくんも知ってるんじゃ……」

『一応は会ってるはずなんだけど、多分覚えていないよ。いつ逃げ出してやろうって考えてたと思うから』

「そ、そうですか……」

『そこで薊様が言っていたよ。『新しく家に加わった』とね』

「……あいつのこと、ですね」

『子どもがいるのは確かに知っていたんだけど、それは男の子。でも、滅多にそういう場所に出てこない彼が連れてきたのは、『新しい子ども』の方だった。それはもうどういうことなのかと、俺らの間では変な噂を流す奴らも後を絶たなかったよ』

「……噂?」

『あの子がいつあの家に加わったのかは知らないけど、……突然、金の動きが変わった。いや、君も知っているのならはっきり言おう。金に加え、薬の動きも大きく変わった』

「…………」

『その少女が原因だなんて誰も信じないさ。なんせ、動きが変わったのは、その子を紹介される数年前からだ。けれど、そうとしか考えられないくらい変わった。……それはもう、異常なほどに』

「…………」

『あの頃の道明寺は、傍目から見ても酷かった。今は、傾いてはいるけどあの頃よりはまだマシだろう。きっと、誰かが立て直したんだろうって話をしていたんだよ。……そのタイミングで、彼女が現れた』

「…………」

『噂が噂だからね。ある人間は、彼女のことを【道明寺を助けた英雄】だと言う。……でも、ある人間は【どん底に落とす悪魔】だと言う』

「……あなたは、どちらなんですか」