すべてはあの花のために❾


「どこまで知っているのか。それはもう大丈夫です。あなたの話からして、大体はわかったので」

『(本当に、この子は一体何者なんだ……)』

「だから、やっぱりオレは、あなたに『こちら側』へ来て欲しい」

『日向くん……』

「シランさん。どうしても無理なら一回だけでも構いません。協力して欲しいんです」

『……協力?』

「ギブアンドテイクで。その一回の協力につき、あなたが知りたい情報をオレが知っていればお答えします」

『……!!』

「どうでしょうか。難しいでしょうか。知らなかったら申し訳ないですけど、違うこと聞いてくださいね」

『…………』

「ちなみにオレがあなたにしてもらいたいことは、あいつの口から自分の話をさせるように促すことです」

『え?』

「自分のことを、話すのが嫌いなんです。でもきっと、壊されたあなたになら、話してくれるんじゃないかと。オレらやアキくんの前では、全然話してくれないので」

『………………』

「でも、あいつを助けるためには、あいつの口からまずは自分のことを話させる必要があるんです。だから、あなたにはなんとか、あいつの話を引き出して欲しい。これがオレの要望です」

『………………』

「だから、これに見合う、あなたが欲しい情報をオレは言いましょう。それからでいいです。駒になってくれるかどうか。そして味方になってくれるかどうか。判断してもらえれば。……でもきっと、あいつがあなたに話したなら、あなたはオレにまた、連絡を入れてくることになると思いますけどね」

『………………』

「知りたくないですか? 『道明寺の少女』のことを」

『………………』

「……え。聞いてますよね? だいぶ無言なんで、一人で盛り上がってる感じなんですけど……」

『……聞いているよ』

「それはよかったです」

『……俺はね、日向くん。本当に道明寺が嫌いなんだ』

「そうでしょうね」

『それを日向くんがなんで知ってるのかも、俺は不思議でならないけどね……』

「これは言えないので、他のことにしてくださいね」

『……申し訳ないけど、俺はもう、あの家にだけは関わりたくないんだよ。あの家が一体何をしているのかなんてことはね、俺らのような人間は何となく勘付いてることだ。だから、逆に言えば手が出せない。……なるべく関わらないようにしなければ、俺らが潰されるからだ』

「………………」

『俺の場合は、勝手に目をつけられた挙げ句、それを拒否してきたらこういう結果に陥ったんだけど』

「(アキくんの誘拐のことか……)」

『だから俺はもう、あの家に片足半分突っ込んでいるんだよ』

「え……? それってどういう……」

『本当は突っ込みたくないよ、あんなところ。でもね、そうせざるを得なくなってしまったんだ』

「(もしかして、人質に誰か……)」

『無理矢理引き込まれ、それはもう拒否できないところまできている。俺らはすでに、あそこの駒でもあるんだよ』

「……!!」

『俺だって助けて欲しいくらいだ。でもそれはできない』

「でも、オレは助けますよ。シランさんのことも」

『日向くん。何度も言うようだけど、俺はもう、あの家に関して何もしたくないんだ』

「シランさん……」

『どうやったって、俺があの家から助かるわけないんだ』

「そんなことは……」

『あの家に反発するようなことをすれば、また危ない目に遭う。また、俺の周りの人間が苦しむ。俺はもう、それを見たくないんだ』

「シランさん……」

『わかってくれ。あの家に俺はもう、逆らうことなんてできないんだ』


 そんなこともあるだろうと思っていた。特に深く関わって、深く傷ついている人は。……オレが、できるのは。ここまで、なのか。