『なんだよ』

「うっわ。全然態度違うし」


 前の方がよかった。怖いわー。裏表激しい人って。


『今シランが脱ぎ散らかした服片してんだよ』

「お仕事お疲れ様です」

『んで? 用事があんだろ』

「実は今週末、あいつがそちらに行くみたいなんです」

『ああ聞いた。アキがすんげー嬉しそうに話してた。頭ん中花畑だぞ』

「そ、そうですか……」

『……てことは、あれか』

「いえ。もうそんなことはさせません」

『ん? どういうことだよ』

「そのままの意味です。ですが、別でカエデさんにお願いが」

『……なんだよ』

「カエデさんは、あいつが来たらオレに連絡を入れてください」

『は? お前も来るのか』

「それだったら連絡する必要ないでしょう? 日にちわかってるのに」

『じゃあ、なんでそんなこと……』

「必ず入れてください。来る前でも構いません」

『……何する気だ』

「え? ああ、来たんだなーって思います」

『は? 意味わかんねえ』

「スイッチONにしなきゃなって思います」

『……へいへい。言わねえってのはわかった』

「カエデさんは、必ずオレに連絡を入れてください。いいですか?」

『了解だ糞が』

「……はい?」

『わ、わかったよ』

「ソレハヨカッタデス」

『……よかった。こいつが主じゃなくて……』

「それと、もう一つ」


 何か、失礼な声が聞こえた気がしたけれど。


「シランさんって、よくご存じですよね。あいつのこと。それから家のこと」

『俺も詳しいとこはわかんねえけど、何かはあるみたいだな』

「そうですか。……シランさんはもう?」

『ああ。もう大丈夫だと思うぞ。元気いっぱいに部屋を荒らしてやがる』

「(あれ。それってオレの家とあんまり変わんないんだけど、大丈夫と言えるのかな……)」

『……話すか?』

「……お願い、できますか?」


 そう言うと、カエデさんが『折り返し電話するから』って言ってくれたので、一度電話を切った。


「(恐らくだけど、あいつはシランさんには話しそうな気がするんだよな)」


 今までの犠牲者は、少なからず誰かが間に入っていた。シランさんの場合も、入っていたって言えるのかもしれないけど。


「(シランさんを壊したのは、あいつが……アオイが作ったものだ。あいつの手が、直接汚れたと。そう思っているに違いない)」


 そうこうしていたら、カエデさんから電話が掛かってきた。


「(いつ振りだろう。話すのなんて)」


 いつも、忙しい方だった。それでもアキくんのために、それから多分シントさんのためにも時間を割いて、行事とか学校には来てくれていた。


「(オレらは、いっつも母さんだけだったっけ……)」


 そんなことを思いながら、電話を取った。


「はい。ヒナタです」

『あ! もしもし日向くん? 俺俺~』


 ……あれ。カエデさんじゃない……。


「あ、あの。もしかしなくとも、シランさん……?」

『え? うん。そうだよ。電話してやってって言われたんだけど……』


 カエデさん。一回ワンクッションおきましょうよ。


「えっと。……ありがとうございます」

『いいえ。今日はもう仕事も終わってるしゆっくり話できるけど……どうしたの? 久し振りで嬉しいけど』

「オレも、久し振りにお話しできて嬉しいです」

『……うん。ありがとうね、日向くん』

「もういいんですか? 体調は……」

『すっかりいいよ。何もかも思い出したしね』

「……シランさん。お話しがあるんです」

『楓も深刻そうに言ってたから、どうしたのかなって思ったけど』

「多分、アキくんから聞いたんじゃないかと思うんですけど」

『ん? 何を?』

「今週末の予定です」

『ああそうだね。予定を調整しておこうって思ったんだ。日向くんも来る?』

「単刀直入に聞きます」

『……何をかな』

「アキくんがあなたに紹介したい相手を、あなたはどこまでご存じですか」

『……それを聞いてどうする』