「……ねえ。あっちゃん、何かあったのかな」


 あいつらの姿が見えなくなって、キサがそう漏らした。


「(ほんと、何があったんだろう)」


 みんなもそう思っているんだろう、険しい顔をしていた。その帰りの道中は、誰一人として言葉を発することはなかった。



「ただいま母さん」

「はるちゃーん!」


 夜遅いっていうのに、母さんはまだ元気みたいでオレに抱きついてくる。


「ごめんねいろいろ。大丈夫だった?」

「はるちゃ~ん」

「大丈夫ならよかった。ご飯も食べられた? 美味しかった?」

「まだまだ」

「あ、そう……」

「はるちゃっ。……はるちゃーん!」


 まともな会話なんてできない。料理の話になると、返事が返ってくるのだけは不思議だけど。


「うん。何するの? 明日は休みだから遊んであげるよ」

「あはははー!」


 ハルナと呼ばれるようになって、どれくらいの月日が流れてきただろう。……もうここに、オレの居場所なんて、だいぶ前から無いんだろうな。


 ❀ ❀ ❀


 それから週明けの月曜日。クリスマスパーティーの案を詰めていくことになったんだけど、そのあと。


「またしばらく、みんなと一緒に帰ったりできそうになくて……」


 あいつがそう言ってきた。
 みんなも何となく気がついているんだと思う。シントさんがあの時迎えに来たのにも訳があるんだろうし、これからは迎えが来るから一緒に帰れないって言ってた。

 ……何があった。それに、アオイから昨日は連絡がなかった。
 なんでツバサは知ってるのかはほんとにわからないが、『願い』を叶えてもらったみんなは、あいつに近づくため、聞く体勢を整えたんだけど……。


「帰られるようになっても、わたしは生徒会室を出たらみんなの前でも【仮面】を……みんなに会う前の、素じゃないわたしになるから。それだけはどうか、覚えておいて欲しい」


 一緒に帰れるようになっても、仮面をがっちり着けるみたいだ。


「……何それ。そうなるのは、しばらくじゃないってこと? ずっとってこと?」

「……わからないの。しばらくかもしれないし、もしかしたらずっとかもしれない。でも、生徒会室なら大丈夫だと思うから」


 そういえば、そもそもこいつは、なんで仮面を着けてるんだろう。家があんなところだから、それを知られないようにするため?


「(……壁、か……)」


 オレらの前では外してたから、そんなこと気になんてならなかったけど。どうして仮面を着けているのかまではわからない。


「(それに、シントさんが来た時でさえおかしかった。本当に笑えてるから。だから外せてるんだと思ってた……)」


 ……何か他に、理由があるのか。でも、それ以上問い詰めようと思っても、あいつが悔しそうな。苦しそうな顔をしてたから。オレらみんな、深く聞くことなんてできなかった。


「アキくん、どういうこと?」

「ん~んっ」
(※飴を舐めています)


 何でかよくわかんないけど、あいつがアキくんの家に行くらしい。しかも、挨拶に。


「(じゅぽっ!)……まあ、そういうことだから」


 アキくんも、話すつもりはないらしい。


「あーやっと葵を紹介できる~るんるんっ」

「(アキくんが最近おかしい……)」


 いや、最近じゃなかった。ずっと前からだった。


「(多分願いを叶えてくれたから、アキくんは自分を助けてくれた人だって教えようとしてるんだろうけど……)」


 あいつは、何か別の目的がありそうだ。


「(駒、増やすか……)」


 帰ったあと、オレはカエデさんのところへ連絡を入れた。