「ちょっと日向」


 那覇空港に着いた途端、何かを抱えてキサがオレのところに来た。


「何? どうしたのそれ」


 そういえば、チカのダイビング話があまりにもしつこくてイヤホンで耳を塞いでたから話は聞こえなかったけど、キサが何かあおいからもらってたな。


「これ。あのペンダントのお礼にあっちゃんがくれたんだけど」

「あ。そうなんだ。よかったね」

「あたしもらえないよ。あんたから頼まれただけだし」

「何のこと? オレはキサがあいつに送りたいっていうやつを持って来てあげただけでしょ?」

「あんたねえ……」

「だから、それはキサがもらうべき。オレの手から離れた時点で、キサからのプレゼントだ」

「だったら、あたしがあんたになんかプレゼントあげる」

「いらないよ。キサなんかからもらっても嬉しくない」

「なんかって……」

「嘘嘘。……ほんと、あいつが喜んでるんなら、オレはそれでいいから」


 でも、あんまり喜ばれるとな。……すっごい、今までにないくらいの罪悪感。


「……日向」

「よかったねキサ。プレゼント喜んでもらえて」

「……はあ。そうね。ほんと、よかったわね」


 それから、飛行機を乗り換えて帰宅するんだったんだけど、ほんとみんな爆睡だった。キサとあいつは、なんか盛り上がってたけど。オレももう目蓋が重たくなって、そのまま飛行機が到着するまで眠ってしまった。
 だからその時、二人であいつのファーストキスについて話してるなんて、知らなかったけど。

 無事に飛行機が到着し、オレらは桜に帰ってきたんだけど……。


「……お嬢様。お迎えに上がりました」


 空港に着いたらシントさんがあいつを迎えに来ていた。


「(様子がおかしい……)」


 オレらがシントさんのところに駆けて行こうとしたら、手で制された。今目の前にいる彼は、オレのスマホの中にいるシントさん、そのものだった。


「シント、何があったのです」

「……急ぎ、お戻りくださいませ」


 おかしいのはあいつもだけど、でもどこか二人とも切羽詰まってる。


「……生徒会の皆様も、もう遅い時間です。お送りすることはできませんが、十分に気をつけてお帰りくださいませ」


 シントさんにそんなことを言われて、本当にどうしたんだと思った。だってオレらは、シントさんのことをあいつを狙う恋敵兼最低な変態執事って知ってるし。
 でも、それなのにこいつの前でも、オレらの前でも完全な執事モードだ。まわりには、誰もいない。オレら、だけなのに。けどあいつはわかったのか、表情が変わった。……あれを、顔に貼り付けている。

 それから、如何にもお嬢様な口調でオレらに挨拶をしたあと、一度も振り返らずにあいつは帰っていったけど……。


『――……っ。急いで。くれっ……』

「……!!」


 シントさんが、一度だけ振り向いて。口パクで、そう言った気がした。みんなが、気がついたかどうかはわからない。


「(急げって。どういうこと……)」


 シントさんの表情は、どこか苦しげだった。最早それが、助けてくれって言ってきているような気がして。


「(シントさんにも接触するべきか……)」


 タイミングが掴めなかった。彼は一番難しい。連絡先はスマホの中に入っているから、しようと思えばいつでも連絡はできるんだけど。


「(この間のことがあってか、なんでか敵視されてんだよね……)」


 調子に乗って、敵にまわした感が半端ない。


「(でもあの調子だと、ちょっと難しいかな)」


 ……少し、様子を見よう。
 でもここでの判断が、後に影響してくるなんて。今のオレが知る由もない。