修学旅行最終日。あ、ていうかオレらは便乗してるだけだけど。朝がめちゃくちゃ早くて欠伸が止まらない。
「(やっぱりツバサ、なんかあったんだ……)」
朝食を食べに降りたら、2年生組がツバサとあおいを凝視していた。……かわいそうに。喉通らないよそれじゃあ。
「(でもあいつは普通だ。……なんでアオイは掛けてこなかったのか)」
まさかツバサ。部屋に帰ってないってこと……ないよね?
それから、眠たい目をこすりながら空港に荷物を預け、オレらは飛行機で島へと向かう。
「……ツバサくん眠っていいよ? あんまり寝られてないんだし」
「……い、いいわよ別に」
どうして寝てないんですかねー?
オレはこっそり睨んだけど、2年生組がマジで怖かった。
ツバサは尋問を受けてたけど、どうやら何か理由があるらしいし。ああ見えてオカマはちゃんとしてるから、そういうことはなかったんだと思う。
「(もしかしてツバサ、アオイと会ったとか……?)」
だったらアオイが、オレに電話ができない理由もわかるし、もし部屋でなんかしてたんなら無理することなんて……ないはず。
「(それにツバサ、あいつのこと寝かせてくれてる……)」
ていうことは、あいつもそんなに寝てない? ……わかんないな。こればっかりは。
それから島に着いて、船に乗り換えて最南端に行くんだけど。
「(足が。止まってる……)」
あおいの足が止まってしまっていた。そんなに船は小さくないし、デカい方なのに……。
オレは、近くにいたツバサへ声を掛けた。
「ツバサ」
「ん? 何。どうしたのよ。別に何もしてないわよ」
そうじゃないんだけど、それを聞いて若干ほっとするオレもいたりする。
「あいつ、あそこから動いてないんだよ」
「え?」
顎であいつのことを指す。一向に乗れる様子がない。まだ出航までは時間があるんだけど、それでもこのままになってしまいそうだ。
「もしかしたら怖いのかもしんない」
「え。どういうこと?」
「今まで乗った船よりは小さいからさ。不安じゃん? 小さいといろいろ」
「えーっと。……まあ、そうね?」
「でも、この船は大きいと思うんだ」
「よく、言ってる意味がわからないんだけど……」
「え? だから、これに乗る勇気あげてきてよ。小さくないよって。大きいでしょって。言ってきてあげて」
「あ、……ちょっと日向!」
ツバサに頼めばもう大丈夫だ。オレはその場を立ち去って、船には乗らずに様子を見ていた。そしたらすぐにツバサはあいつのところに行って、何でか知らないけど背中をとんって押していた。
「(よかった。乗れたか……)」
それから船が出たんだけど、なんでか隣にツバサが来た。
「あ。すみません。オレ女の子にしか興味ないんで。オカマはお断りなんですけど」
「うっせえよ」
ツバサがそう言ったら、周りの人たちが驚いてたり涙を流してたりしてた。
ごめんね、夢壊して。これ、うちの兄ちゃんなんだよね一応。でも、わざわざオレのところに来るってことは、話があるってことだ。
「それで何? オカマさん」
「……ずっとその調子でいくのかよ」
「嘘嘘。……どうしたのツバサ。聞きたいことあるんでしょ」
「いやまあ、あるっちゃあるけど。このことはお前には聞けないから……」
そう言ってちょっと思案顔。それじゃあ、オレから聞いてみようかな。
「ねえ、バンジーって何」
「は? 高いところから飛び込むやつだろ?」
「違うし。ふざけてんの」
「……ちょっとな。背中押してもらう約束したんだよ」
「……よく、わかんないんだけど」
「これは俺の問題だからな。気にすんな」
ビシッとデコピンをされるが、痛くないってことは相当ツバサもキてるらしい。
「……もしかしてさっきのこと?」
「まあ聞きたいけど。聞けないからいい」
「……なんで?」
「あいつのことは、あいつから聞かないといけないからだ」
ツバサがまだオカマなら、まだ願いは叶えてないはずなのに。なんでツバサは、そのことを知ってるんだろうか。



