修学旅行4日目。今日は、平和記念資料館に行くみたいだけど。


「(全然メモってない……)」


 レポートを書くんだと言っていたあおいは、一応それらしきものは持ってきていたけれど、一つも書いている様子がなかった。それはオウリも気になったみたいで、あいつに聞いていた。


「気にしてくれてありがとう。大体こんな感じってレポートには書くから、ピンポイントだけ覚えてるの」


 ピンポイント、ではないんだろう。きっと、ここに書かれていること。あったこと。会った人。話したこと。全てを、こいつは覚えているんだから。……にしても。


「(……戦争、ねえ)」


 ここへ来たいと言ったのはあおいだ。どうしても来たいと言っていた。


「(あいつを助けないと、本当に最悪なことが起こり得てしまうかもしれない)」


 今でさえ、ただでさえ、たくさんの人が苦しんできた。それは、今も現在進行形だ。


「(何か、あいつも思うことがあるんだろうな)」


 わざわざここへ来るということはそういうことなんだろう。わからないけど、でも、何かを考えてるのか時々暗い顔をしていた。

 次のカフェでも、海外の話が出た時、みんなにはバレてしまうと心配を掛けるからと思ってるのか、ほんの一瞬だけ暗い顔をしていた。
 恐らくだけど、自分は行きたくても行けないから。あんな偽物は使えないから、悔しいのかもしれない。

 それからホテル付近の通りで買い物をすることになったんだけど……。


「そ~ら! あっちへ行くわよー!」


 ツバサとあいつ以外のみんなは、本気でキサに振り回された。荷物持ち兼ボディーガードらしいけど、完全にパシリ状態で、もうへとへとだった。


「今日絶対爆睡……」

「そうかそうか~。よかったね! 明日早いし?」


 振り回した奴は、全然反省する気がないし。


「……キサ、昨日なんか言ったでしょ」

「ん? 何が?」


 わかってるだろうから、何も言わない。


「言いたくないわけじゃない……か。恥ずかしい?」

「いいから答えてよ」


 あいつの手を握って、走って行ったこと。みんなが追いかけてこないわけない。


「特に何も言ってないよ? ただ、追いかけていきそうになったから、あんまりしつこいと嫌われるぞ? って言っただけ」

「(夜、同じことオレ言ったんだけど……)」


 どっちかというと、こいつと息ピッタリな気がしてならない。


「それで? どうしてあんなことになっちゃったんだ?」

「……昨日も言ったけど、写真撮ってあげてた」

「ふむふむ」

「トーマにあげるんだって」

「え。よく引き受けたね」

「だって困ってたから。……まあ送ってないけど」

「え?」

「オレのスマホで撮ってあげたんだ。でもあいつはいらないって言うから、オレが代わりにトーマに送ってくれって」

「ありゃりゃ……」

「何でオレから来るのか、とか面倒くさいじゃん」

「そうだね。あいつはあっちゃんに関しては面倒くさい」

「でしょ?」


 それからそれから? と、キサの視線が先を促してきて、小さくため息を落とす。


「あいつの手を繋いだのは」

「うんうん」

「いじわるしたかったから」

「え」

「あいつと、あとはみんなの反応見て楽しんでた」

「ま、またまた~……」

「え? ううん。これほんと」

「え。マジですか……」

「うん。……はじめは、ね」

「え?」

「……ちょっとは、そんな気もあったんだ。でも多分一番の理由は、嫌だったからだと思う」

「……杜真に送るのが?」

「うん。それもある。すごくいい写真撮れたから」

「……そっか。あんた写真好きだもんね」

「本音を言えば、高い一眼レフで撮りたかった」

「そ、そう……」

「それぐらい、……あいつの笑った顔見て、いろいろ吹っ飛んだんだ」

「……そっか」

「吹っ飛んだし、いじりたいしで大変だった」

「そ、そうか……」

「……もうちょっとって」

「ん?」

「もうないかもしれないから。……もうちょっと、繋いでたかったんだと思う」

「日向……」

「その結果がああなったわけ。……これでいいでしょ」

「……きっと、またあるよ」

「は?」

「きっとまた、繋げると思うよ?」

「……そうだと、いいね」