「(あーあ。もうすぐバス停だし……)」


 どうする? このまま走って帰る? そしたらまだだいぶ一緒にいられるけど。


「(でもまあ、オレよりもみんなといる方が楽しいだろうし)」


 オレは、こんな些細な時間が嬉しくてたまらないけど。
 バス停に着き、みんなが来る間。オレらは何も言わずに、ただただ息を整える。


「(あ。握ったままだった……)」


 流石にまたギャーギャー言われるのもあれだしな。そう思って、手を緩めようとしたんだけど。


「(……なんか、握られてるんですけど)」


 オレはもう、力なんて入れてない。でも、まだしっかりと手は繋がれたままで。


「(何考えてんのか全然わかんないんだけど……)」


 ただ、下を向いて。空いた手を胸に当てて。息を整えてるあおいは。……今、どんな顔をしてオレの手を握ってるんだろう。


「……バス停、着いたんだけど」


 いやまあ、オレもできることなら手を繋いでたいけどさ? またうるさいよ? みんなが。


「……はあ。……はあ……」

「……? そんなに本気で走ってないと思うんだけど」


 ていうかみんなも遅いな。絶対邪魔してくると思ったんだけど。


「……も」

「も?」


 そう言ったら、手にぎゅって力を入れてくる。
 それが、いつものこいつの力強い感じじゃなくて。弱々しいというか。縋り付くような。


「……もういっかいっ!」

「はい?」


 下向いてるからわかんないし。
 何? 何をもう一回? 走るの? 流石にもうしんどいんだけど。


「もういっかい。……にぎって。……ほしい」

「………………」


 ちょっと待ってちょっと待って。聞き間違い? 消え入るような声で、そう聞こえた気がするんだけど。
 ……あれかな。あおいが好きすぎて、まさかオレまで幻聴が聞こえだしたのかな? あ、わかった。夢でしょ。そうなんでしょ。なんて都合のいい夢――――……。


「(なわけないでしょ)」


 未だに力を入れないオレの手を握ってくるこいつの手は。……弱々しく、小さく震えている気がして。


「(なんでそんなこと言ってくるのかとか、わかんないけど……)」


 わかんない。わかんないんだって。
 じゃないと、勝手に……。都合のいいように解釈する。


「なんで? みんな来るから、またうるさくなるよ?」

「……なんで。だろう……」

「(わかんないのかよ……)」


 なんでまた、わからないのに手は離さないのか。……あ。しかもみんな来たし。遠くに姿が見えた。
 めっちゃ歩いてるー。オレ声聞こえなかったからさ、こいつのしか。言ってくれたらオレだって歩いたんだけどー……。


「(一体、どうしたって言うのか……)」


 しょうがなく、ほんの少し握ってまた緩めた。


「……これでいい?」

「もうちょっと強く……!」


 やっぱりドMか。……ほんと、何がしたいんだよ。


「……っ、はい。これでいい?」


 今度はさっきより強めに握って、すぐ緩める。


「……うーん」

「(うーんってなんだよ……)」


 こいつが何を求めてるのかは、よくわからなくなったけど。


「……みんな、来るからさ?」


 もう。……きっと一生できないだろうから。


「……!」


 きっと、これが最初で最後。本当に少しの間。


「……はい。特別大サービスだからね」


 みんなが来る前に、カチン……ッと固まるあいつの手を、両手を使ってそっと外す。


「これで要望には応えられた? まあ、下僕だけど考慮してやるって言ったしね」


 まだ俯いてる。……ほんと、さっきから全然こっち向いてくれないんだけど。


「(……何かあったのかって。また心配するよ?)」


 ま、オレが聞きたいけどね一番。何があったんだ、ほんと。
 オレは、あいつの頭にノックをするように、こつんと触れる。


「みんなが来るよ。俯いてたりしたら、あいつら心配するじゃん」


 もう一度、こつんと叩く。


「どうして俯いてるのかは知らないけど、……心配、掛けたくないんでしょ? みんなに」

「……!」

「前も言った。オレはあんたの心配はする。あんたもオレの心配すればいい。みんなに心配掛けたくないなら、笑って」

「……うんっ! へへ。……ありがと!」

「(何に感謝されたのかわからない……)」


 けど、顔を上げたと思ったら、なんか嬉しそうに笑ってたから。


「……どういたしまして」


 よくわかんないけど、良しとしようか。