すべてはあの花のために❾


「こ、これ……」

「あれ。いらなかった?」


 でも、写真を見たり、オレを見たりしてたから、多分驚いてるんだと思う。


「オレにできないことはないからね」


 オレなら絶対、トーマなんかよりもあんたを綺麗に撮れる。

 ……トーマの写真が好きだった。だって、オレの世界を。見方を変えてくれたのはあいつなんだから。
 オレにとっては、あの頃のトーマの存在は絶対だ。もちろんハルナも、みんなもだけど。……でも、あいつのおかげでハナに。あおいに会えた。

 はじめは悔しかった。トーマみたいに撮れなくて。
 でも、楽しかった。レンズの向こうの世界。

 あの頃は、トーマに負けたくないって必死だった。……だから今は。


「……今はオレの方が上な自信あるけど?」


 特に隠し撮り? やっぱ特技の披露はこっちにするべきだったかな。
 あ。今度チカの白目あげよう。絶対笑ってくれるから。

 そんなことを話しただけなのに、あいつが嬉しそうに笑った。何がそんなに楽しいのか。ただ事実を話しただけなのに。でも、そんな顔が見られて嬉しくて、自然に頬が緩んでた。


「なになに~? 二人が仲良さげなんて珍しいねー」


 ……チッ。今すごいいい気分だったのに邪魔が入ったし。
 しかもなんか突っかかってこられて、『何があったんだ』と笑いながら執拗に聞いてこようとする。


「(さてと、どうしたものか……)」


 みんなの質問は終わりそうになかったし、ハッキリ言って全然なんにもなかったのに聞いてくるみんなを、あーバカだなって思ってた。


「(しょうがない。それじゃあちょっとぐらい、いいかな)」


 みんなの慌てる様子が目に浮かぶ。それにあいつのも。
 そう思ったら、口角が上がった。


「ま、オレらお揃いだしね」

「え――」


 ほら。驚いてる。それがやっぱりちょっと楽しい。
 オレは、そっとあおいの左手を右手で掴んで、みんなによ~く見えるように持ち上げる。


「ほら。カップルみたいでいいでしょー」

「えっ?」


 ほら。やっぱり驚いてる。ていうか一緒のもの作ったんだからお揃いになるに決まってるのにね。みんなバカだなー。
 でも、ギャーギャー文句を言っててうるさかった。……それに。


「(もう、ちょっとだけ……)」


 こんなことでしか近づけない。こんなことでしか、触れられないから。
 一分でも。一秒でも。長く繋いでいたいから。


「あーめんどくさ。ほら、行くよ」

「ちょっ。ヒナタくんッ?!」


 そんな、慌てたあおいの声なんて聞こえてない振りをして。……手を繋いだまま。バス停に着くその瞬間まで、手を握らせていて欲しい。
 触れた先から伝わる確かな熱。オレがこんなことをしてるのを、少し驚いている様子も伝わってくる。


「(はあ。……あったかい)」


 後ろからみんなが追ってきてるんだろうけど、今のオレにはこいつのことしか考えられない。こいつの声しか熱しか。伝わらない。


「ひ、ひなたくんっ?」


 邪魔なんかされたくないからね。
 なーに? あおいと。心の中で、そう返す。

 もっと、名前を呼んで欲しい。今は。今だけは。本当のオレだから。ルニでもないよ。怪盗でもない。「一体どうし――」……たのかなんて、そんなこともわからないの? と。そっと振り返って、あおいの瞳をやさしく見つめる。


「(そんなの、あおいともう少しだけ。一緒にいたいからに決まってるでしょ?)」


 心の中で、そう返事をした。すぐに正面を向いてしまったから、あおいが顔を赤くしてたなんて知らなかったけれど。
 あいつの手が少し緩んだ気がしたから、離れたいのかなって思ったけど。……でも。逃がさない。


「(まだ。もう少しだけ……)」


 ごめんね。これは、オレだけの我が儘だから。……だから。
 ごめんねと。心でそう謝って、もう一度強くあおいの手を握った。