「ねえ」


 あおいがガスバーナーを使いながら、とんぼ玉を作っているのところを邪魔をする。


「ほんとに危ないからね? 絶対に触ったらダメだから。ねえ。聞いてるの? ほんとにダメだからね」

「いやいや、君さっきからわたしの腕掴んで何しようとしているんだい」

「いや、ほんとに危ないから押さえててあげようかと思って。ほんと、ダメだからね? わかってる?」

「うん。すごいフリ(、、)が来てるのだけはひしひしと伝わってきてる」


 ばっかだな~。そんなこと、思うわけないのにね。ほんと、必死感が伝わってきて楽しい。


「お揃いだね!」

「呪われるかもしれないから、帰ったら180℃に温めたオーブンでチンする」


 ……お揃い、か。あんまりアクセとか着けないんだけど。とんぼ玉があまりにも綺麗で。オレの汚いところを吸い取ってくれそうな気がして。


「え。そ、そんなに嫌だ……?」

「冗談だし。……ほら。さっさと待ち合わせ場所行くよ」


 なんか、こいつと一緒だと思うと。……胸がざわつく。

 それから出入り口に行ってみたんだけど、あいつが高速でTシャツの二枚目を作ったから、結局のところ一番に集合場所に着いたりする。そしたら、出来立てほやほやのブレスレットを、あいつが一生懸命に着けようとしていた。


「(何でも熟すのに、なんでそういうのは上手く着けられないんだか……)」


 そういえば病院でも、オウリにミサンガを着けてもらっていたっけ。
 にしてもぶきっちょ過ぎて永遠に着けられそうになかったので。


「(……まあ、これくらいなら)」


 ため息をついて、そっとあいつの腕に手を伸ばす。
 どっちの手かなんてわからなかったけど、ブレスレットもあの時と同様左手首に着けようとしていた。


「(利き手じゃない方は確か……)」


 だいぶ昔に、ハルナが何かアクセサリーを着ける場所や、数によって意味が変わってくるみたいなこと言ってたな。


「(そういうのが面倒くさくて、着けなかったりもするんだけど……)」


 別に気にはしていないんだけど、そういう目で見られるのがちょっと面倒だ。特に女子。


「……あんた利き手どっちだっけ」

「右だよ?」


 まあ知ってるけど。


「目標が決まってるなら利き手。何かを変えたいなら、利き手とは逆にしたらいいって聞いたことあるよ。まあこれ、パワーストーンの話だけど」

「……何かを、変えたい?」

「何? なんか変えたいことでもあるの?」

「……わたし、は……」

「もしそうじゃないなら、折角だし今のうちに変えたら? 着ける手」


 こいつも女子だから。一応願掛けとか、そういうのを気にしてたりするなら。そう思いながら、伝えた。


「……ううん。大丈夫。わたしにはこっちで正解だから」


 たった、それだけのことなのに。ふんわりと、オレに笑いかけてきて……。


「あっそ」


 また一瞬、息が止まる。
 ……お揃い、か。


「ヒナタくんはどっちに着ける? 多分今は着けないんだろうけど――」


 オレはもう、決まってる。
 オレの目標は、ただ一つだけだ。


「オレはこっち」


 オレの目標は、昔から決まってる。だから、オレは利き手の右。


「つっ、着けてくれるのっ?」

「え。だって、折角だし」

「そっか! お揃いだね!」

「アーハイハイ。ソーデスネー」


 あんまりお揃いとか言わないでよね。恥ずかしい奴。


「もうっ! なんで素っ気ないの!」


 なんで? ……そんなの。


「あんたの困ってる顔が好きだから」


 拗れたオレが言えるのは、こんなことくらいだ。


「ああそうですかそうですか! もう知らない!」

「…………」


 オレ、それでも結構言えた方なんだけど。拗れたオレがこう言えるのって、結構すごいと思うんだけど。


「あれ? というかヒナタくん、利き手どっちだっけ?」

「右だけど(全然気づいてくんない)」


 ま、そういう気持ちに疎いしね、こいつ。
 しょうがない。無駄なオレの努力だった。


「そっか! だったら目標が決まってるんだね! すごいねえ!」

「はあ。……それで? あんたは何を変えたいの」


 オレなんかに教えてくれるわけないんだろうけど、一応ボイスメモをONにする。


「……わたしが変えたいのは、『わたし』だ」

「(え……?)」