「それじゃあ、多分そろそろ風呂交代なんで、先にいただきますね」
歩き出そうとしてひとつ、言い忘れていたことを思い出す。
「あの、座布団。もう一枚用意しておいてあげてくれますか」
「え?」
「なんでや?」
「恐らく、来客が来ると思うので」
小さく笑ったあと、オレは借りた部屋の方に戻っていった。オレの後ろでは、二人が首を傾げていたらしいけど。
それから女子たちのあとにお風呂を頂いていたら、さっき会った二人が、何かを担いで風呂に入ってきた。
「アオイちゃん! しっかりして!」
「葵ちゃんしっかりせえ!」
そんなこと言い出したから、急いで下を隠したけど。
「(え。ハナ、まさか……)」
「……あおいチャン、もしかして冷たくなってますか!?」
「(え? なんでアカネが知って……)」
……あ。そっか。道場で確か倒れたって言ってたっけ。それならきっと、カナも知ってるはずだ。
「……多分大丈夫」
「そうだね。しばらくしたら落ち着くと思う」
オレとカナで、アキくんとツバサの手を掴んで、ハナの冷たい手を握らせる。
「握ってあげてて」
「安心すると思うから」
「おうりとちかクンは、あおいチャンの体摩って温めてあげて」
一度経験があるオレとカナとアカネで、フォローに回る。
「布団温めておく」
「着替え準備しとかないと」
「きさチャン連れてくるよお」
急いで体を拭いて、脱衣所を出る。
「きさチャン起きて!」
「ん~……。まだ頭がぐらぐらする~……」
アカネはキサを起こしに行って。
「悪い! 浴衣をもう一つ! 大急ぎで出して欲しいんだけど!」
カナは組の奴らに頼んでハナの代わりの浴衣の手配をして。
「すみません。急で申し訳ないんですけど、小さい部屋でいいんでもう一部屋、静かなところを貸してもらえませんか」
「それはええですけど、どうされたんすか」
「あ。……すみません。さっきは夢壊して」
「いや。逆に早期に言ってもらえてよかったっす……」
「実は一人、女の子が体調を悪くして。オレらとは別の部屋にした方がゆっくり休めると思って」
「女の子……ああ、髪の長い?」
「いえ。組の人たちボッコボコにした方です」
「え。ど、どっか怪我されたとかっすか」
「なんて言ったらいいか。持病みたいなもんで。なので、そこの部屋に布団を引いて、温めておいてあげたいんですけど」
「……風邪とかですか?」
「取り敢えず体を温めたら大丈夫かと。ストーブとか電気毛布とか、湯たんぽとかあれば、それもお借りしたいです」
「わかりました。部屋は皆さんの隣の隣を使ってもらえれば。急いでそちらに頼まれたもん持って行きますんで、布団は皆さんの部屋のを一つ運んでおいてください」
「すみません無理言って。よろしくお願いします」
オレは別の部屋と、布団を温める準備をした。
「なんだとあっちゃんが!? それを早く言わんかーい!(ぼこッ)」
「いてっ」
キサはアカネを一発殴って大急ぎで脱衣所へ向かい。
「ばっきゃろー! なんでそんなんしかねえんだ! もうちょっと色気があってかわいい浴衣を探せー!」
……カナは、自分の趣味に突っ走り。
「よいしょ。布団はこれでよしとして……」
「持って来ましたよ」
「あ、すみません。ありがとうございます。無理言ってすみませんでした」
「いえいえ。俺らの方こそ、いろいろ迷惑掛けちまったんで。またなんかあったらいつでも言ってください」
「はい。……じゃあ、その時はお言葉に甘えます」
オレは、持って来てもらったものですぐに布団を温めた。



