「ヒナタ様々も、大変申し訳ないことをしたでござるよ」
「謝る気あるの、ないの。どっち」
みんなに謝って回っていた。、謝ることなんて何一つないんだけど。
「申し訳ない主! 下僕のわたしが、大変失礼なことをしてしまったそうな! どうぞ、煮るなり焼くなり好きに――ぐはっ!」
「声もうるさい視界もうるさい。世間の皆様にどん引きされてるオレの身にもなれ」
謝らなくてもいいってんのに土下座までされるし、いろんな人にオレが変な目で見られるし。
「(……ついつい手が出ちゃったじゃん)」
流石にそんなことをされて、オレは結構本気であいつの横っ腹を蹴り上げた。
「(怪我させたくないって言ってたのにねー)」
つい出ちゃったからね、つい。しょうがないよねー。
「だから謝んなくっていいんだって。ま、オレはだけど」
吹っ飛ばしてしまったあいつの元へ。目の前にしゃがみ込んで小さく笑う。
「(誰もいないけどね。あんたに謝って欲しい人なんて)」
……でも。今はそんなことよりも。
「……よかった」
見つかって、よかった。いつも通りの、あおいで。……よかった。
そう思ったら、勝手に頬が緩んだ。そう思ったら、勝手に手が動いてた。
「(あ……)」
目の前のこいつも、オレがこんなことをして驚いている。オレだって。勝手に動いて驚いて……。
「「………………」」
二人して目を見開いて。バカみたいに見つめ合って。多分だけど、息が止まってた。
……ううん。なんか一瞬、時間が止まった気がした。
――どんっ!
「ぐはっ」
「あーちゃん大丈夫?! ひーくん酷い! 女の子蹴るなんてサイテー! ひーくんが謝れ!」
ま、直後オウリに吹っ飛ばされたけどね。
「(……あー。痛ーい……)」
オウリの奴、容赦ないんだもん。マジで痛いし。結構ぼろぼろだし……。
「(危ない危ない。ほんと、ぶっ飛ばしてくれてありがとうだけどね)」
でも痛すぎて起きられない……。
声出せなかった頃は、そんなことしなかったのに。あいつ調子乗ってんじゃない……?
「……ちょっと日向、大丈夫?」
「おーい。生きてるかーヒナタ」
あ。なんか来てくれた。
「「なんかとはなんだ」」
「息ピッタリだね二人も」
あー。痛い痛い。ほんと。
「(……胸が。痛い……)」
ぐうっと、オレが胸元の服を掴んだら、また心配されてしまった。
「……さっきオウリに吹っ飛ばされて胸から落ちた」
「「それは痛い……」」
ほんと痛い。自然に体が動くと。自然と笑えると。
「(ああ痛い。無理無理。揺らぐ以前の問題で……っ)」
あいつに触れられたことが。近い距離が。頬が緩んだことが……。
「(……勝手に。暴れんな。くそ……)」
たったあれだけのことで、痛いくらい。苦しいくらいに暴れる心臓を。ただただ、顔だって二人に見られないように、俯いて静めてた。



