「(っ、あれを。使わないといけないのか……)」
スマホにイヤホンを差して、アプリを起動しようとした。
「(……ッ、だめだ。できない……っ)」
考えろ。オレなら。オレなら……っ。
「(よく、似てるって言われるんだ。あいつと。……ちょっと心外だけど)」
だからきっと、あいつなら……! オレは、スマホで連絡を取る。
「もしもしキサ? キサはトイレの個室叩きまくって」
『あいわかった!』と、そう聞いて次の人へ。
「もしもし、ツバサもトイレの個室叩きまくって」
『はあ!? どういう――』って言う声は聞かずに次に掛ける。
「もしもしアキくん? 案内所行って、迷子のお知らせで放送かなんかしてもらって。その場で待機ね。アキくんは絶対に一番にあいつ見つけたらダメ」
『え? なんで? 俺も見つけたい――』って言ってたのも聞かずに次へ。
「もしもしカナ? またナンパしてるでしょ。あいつ見つける気がないなら池にはまって頭冷やしてね」
『――――』何か言ってたけど次。
「もしもしアカネ? アカネは東の森ね」
『も、森!?』
「うん。オウリもいるんでしょ? オウリは西の森ね」
『え!? どういうこと? ひーくん!』
「え? 木陰にいるかと思って」
『『流石に範囲が広いよ!!』』
今度は怒って切られてしまった。でもまあ最後に。
「本命だからね。いじられた分仕事してねチカ」
『は?』
「高台に行って」
『は? あいつ見つけたのか? それか、お前に連絡来た?』
「来るわけないじゃん。蛆湧いてんの」
『なんでそこまで言われないといけねえんだよ……』
「多分、見晴らしのいい場所」
『ん?』
「チカはそこに行ってみて。オレはちょっと休んでる」
『いや捜せよ』
「捜す捜す。それじゃあよろしく」
『……チッ。お前が行ってやればいいものを』
「なんで。行くわけないじゃん」
『……はあ。昨日も思ったけどよ』
「早く行ってあげてねー。飛び降り自殺しようものなら止めるんだよー」
『……! だ、ダッシュで行ってくる……!』
そう言ってチカを無理矢理行かせたけど。
「あいつは。高い丘に、いっつもいたから……」
一人になるのに、いつもそこにいたんだから。
「だから、きっといる。……バカ同士なんだから、気が合う者同士の言葉なら、きっとあいつも落ち着く」
不安なんてない。
……え? なんでみんなに連絡を入れたのか? ……まあ一応だよ、一応。
しばらくしたら、チカから連絡が来た。どうやら無事だったみたいだが、マジでもう少し遅かったら飛び降りようとしてたらしい。
「(まあ、本当に飛び降りようとしてたならアオイが出てくるだろうし。チカから逃げようとしたんだろうな絶対)」
しかもまだ心が決まってないみたいで、少しプラプラしたら案内所に戻るからって連絡も来た。
「(ただ単に、チカが二人っきりになりたいだけだろうけど)」
オレになんか文句があったみたいだけど、それをわざと切り上げてチカを行かせたんだし、文句は言えない。
「(でも、……そっか。やっぱり高台にいたんだ)」
あの頃から全然変わってない。それが……やっぱり、ちょっと嬉しい。
「(……そっか。いたんだっ)」
木の陰に座り込み、膝を立てて空を仰ぐ。
「(……お日様、か……)」
オレは、変わっただろうか。
「(はは。まあ、少なくともお日様ではないな)」
それは最初から。あいつに会う前からオレは、思っていたことだけど。
「(オレはもう、お日様になんてなれるわけない)」
……オレがなれるのは、きっと。もう、真っ暗な闇だけだ。
空に浮かぶ太陽を見つめるのはやめた。すぐに視線を落として、真っ暗な影だけをしばらくオレは見ていた。



