「……あー。揺らぐ揺らぐ……」
部屋に入って、扉に背をつけ項垂れる。
「オレは汚れてるから。綺麗な花は、汚せない……」
これでいいんだと。……もう何回、そう言い聞かせてきただろう。
「何回言い聞かせたって。無理だ。好きなのはどうやったって、変わらない。あいつが幸せになれるまで。オレは変われない……」
きっと今日も、そう言い聞かせているうちにお日様が顔を出す。
「……ん? 顔を、出す……」
ちらりと、あいつの本当の名前が浮かぶ。
「……朝日。……葵。…………向日葵……」
頭を膝の中に入れ、俯いたままオレはいつの間にか眠った。
「(ていうかチカ、足の踏み場もない……)」
もしかしたら、ベタベタでも自分の部屋の方がよかったかもしれないと。そんなことを思ってたりもする。
「…………。ひなたっ……」
閉まった扉に、何度も悲痛の声を上げる。
「……ひ、なた……っ!」
ズルズルと、扉に頭を、手をつけてズレ落ちる。
「この気持ちは。わたしは言えない。……言っちゃ。いけない……」
葵の胸の中に芽生えた、ある感情の正体。
「ヒナタがそんなんじゃ。……葵が好きになったって。ダメじゃんか……っ」
ただ一人。葵の気持ちに気づいたものが、何もできずにもがいていた――――。
「し、死んでお詫びをおぉおぉぉ~」
あいつは覚えてなくてほっとしたけど、キサの奴が「覚えてないの?」とか聞きやがったから、あいつが気になって結局話すハメに。そしてバスから飛び降りようとしたあいつを慌てて止めた。
「(別に謝って欲しいわけじゃない。おかしかったってみんな思ってるんだから、あおいが元気ならそれでいいんだ)」
ま、まあ。アキくんはちょっと重傷かもだけど……。あいつを見てはぽーとしてたり、急に顔を赤くしたりと忙しない。
「わっ。わたしは。下僕で変人で。オオカミで。変態の最低な痴女ですうぅー……!!」
バスが目的地へ着いた瞬間、チカをぶっ飛ばしてあいつはダッシュで降りていってしまった。
「(……ッ、それは間違いない!)」
みんなは伸びてるチカなんか目もくれず、あおいを追いかける。
「……は、早い……」
「もういないよーアオイちゃん……」
「あの子をこのまま一人にしちゃいけないわ」
「そうだね。あおいチャン、今なら自害しかねない……」
「あかねー! そんな物騒なこと言わないで!」
「まあ冗談だろうけど、今のあっちゃんはほっといたら何しでかすかわからないのは確かだね……」
「……取り敢えず、一刻も早くあいつを見つけ出さないと」
「置いて行くなよ……!」
あ。チカが来た。
「よし、手分けしよう」
「そうだね。俺はじゃあ、あっちに行ってみるねー」
「カナ! ナンパすんじゃないわよ! 今は早くあの子を見つけないと!」
「じゃあ、おれらはあっちに行ってみよう! ね、おうり!」
「うん! それじゃあ、何かあったら連絡ね!」
「ダメだ。あっちゃん全然出ないよー」
「今は多分出ないよ。あんなことあったんだ。あいつ、今はオレらに会いたくないと思うよ」
「無視すんなよ……!」
それからオレらはみんなでバラバラになってあいつを捜した。チカはほっといて。
「(……ッ、くそ。どこにいるんだよ……!)」
こんな広い城の中。こんな多い人の中。背の小さいあいつじゃあ、見つけるのだって難しい。
「(いっつもだったら、すぐに何があったって、勝手に目に入るのにっ)」
どこだ……! どこにいる……? 自分だったら、どこに行くだろうか。
「(今は、早くあいつを見つけてやらないと……!)」
早くあいつに声を。誰かが掛けてやらないと……!



