そんなアオイの声を聞きながら、ゆっくりと立ち上がって部屋の扉の方へ向かう。


「何言ってんの今更。アオイだってよく知ってるでしょ」

「だから、……っ、さっきのはどういうことかって言ってんの!」


 開けて出ようとしたところを、後ろから手が伸びてきて阻止される。


「あんまり大きい声出さないでよ。隣のオウリに聞こえちゃうじゃん」

「大丈夫だ。防犯は昨日のうちに確認している」

「いや、どうやって……」

「さっきの。……どういうことヒナタ」

「だから言ったじゃん。そのままの意味だって」

「……ひなた」


 だから、オレは。そんな顔して欲しいわけじゃないんだけど……。


「……みんな、そんな顔するんだね」

「え?」

「なんか、……悔しそうな顔?」

「当たり前じゃん」

「そっか。当たり前、なんだ」

「だって。ヒナタだって。好きじゃん。葵が」

「……まあ、そうだよね。それはもう、異常なほどに」

「じゃあなんで関係ないなんて言うの! ヒナタはどうして。諦めてるのっ」


 トンと、オレの背中にアオイの頭が当たる。でも、振り返らない。


「……アオイの幸せはさ、何?」

「そんなの。葵の幸せだ……!」

「オレの幸せも、あいつの幸せだよ」

「……! ならっ」

「だから、オレは関係ないんだよ」


 そう言って、アオイの手を扉から外す。


「ヒナタ……!」

「オレの幸せはオレが決める。だから、アオイも応援してて。あいつを、一緒に助けてあげようね」


 ドアノブに手を掛けたら、それをアオイが必死に止めてくる。


「なんで……!? 好きなら葵のこと幸せにしてあげてよ!」

「……。オレじゃあ、できないんだ」

「そんなことないっ。誰よりも葵を大事に思ってるヒナタが、できないわけない……!」

「……想いだけじゃ、オレは……。……これは、どうやったって変えられない」

「……え?」

「いろいろさ、オレもどうやったらあいつは幸せになれるかなって、考えてるんだ」

「……。ひなた……」

「アオイにはアオイの幸せがあるし、アオイの考えるあいつの幸せもある。……逆に言えば、オレにはオレの幸せがあるし、オレの考えるあいつの幸せもある」

「ひなた……!」

「でも、決めるのはあいつだよ。誰がどう考えてたって。……だから、オレはやりたいようにやるだけ。それだけ」


 小さく笑って、アオイの肩をトンと押す。


「ひな、――むぐっ」

「ほら。もうオレ出てくから、静かにね」


 口元を手で覆って小さく笑う。


「それじゃ、おやすみアオイ。アキくんの気持ちが暴走する前に、ちゃんとオレに吐きなよ?」

「……。んー……」


 やっぱり悔しそうにアオイは俯いていた。


「それじゃ」と、小さく声を掛けて、そっと扉を開けて、……静かに閉めた。