ぼそりとそう呟いたあと、「ん……」と、あおいから声が漏れた。


「あ、れ。ここは……」

「…………」

「あれ? ヒナタじゃん。どうしたの? 夜這い?」

「違うしバカでしょアホ」

「す、すみません……」


 アオイは、しゅん……となってベッドの中に潜り込もうとしたけど。


「はーい逃げない」

「ぎゃあ……!!」


 掛け布団を引っぺがして、きっと話したくなくて逃げようとしているアオイを止める。


「ちょっとねえアオイちゃん。聞きたいことがあるんだけどねえ」

「すみませんすみませんすみませんすみませんー……っ!」


 ベッドから飛び降りて床に頭を擦りつけながらアオイが謝ってくる。


「へえ。そう言うってことは、オレがなんで怒ってるかわかってるんだー」

「はっ、はい! ……あの。でもあんまり言いたくな」

「オカマになれって、本気で思ってんの」

「へ?」

「シンデレラにでもなれって? ……女の方がよかったの」

「え。ちょ、ちょっと。ヒナタさん……?」

「ねえ。どうなの」

「……思うわけないじゃん、そんなこと」

「アオイ?」


 少し影が差したアオイの目線に合わせるよう、オレもしゃがみ込む。


「じゃあ、なんであんなこと言ったの? みんなに傷つけるようなこと。言いたくなかったでしょ? アオイだって」

「……出ちゃった、から」

「でも、出たからってあんなこと言わなくったって」

「言ったでしょ。わたしは、葵に嫌われてないといけないんだよ」

「アオイ……」


 だからって。ただでさえもう嫌われているのに、またなんでそんなこと……。


「……もう。出ちゃったら。葵に、わたしの時間以外の記憶が変に無かったらもう……」

「それだったら、オレがなんとかあいつを丸め込んだし」

「たとえヒナタがそうしてくれるんだったとしても、どこかおかしいって思う」

「アオイ……」

「そうしたら、ヒナタが何か知ってるって。……自分のことを、わたしを知ってるんじゃないかって。勘付くだろうから」


 そうか……。アオイは、自分が嫌われてもいいから。


「オレなんかの立場を、守ってくれたんだね」

「自分のこと、なんかなんて言わないで」


 膝を小さく抱えながら、アオイは小さくなった。


「……ばかだね、ほんと」

「バカじゃない」


 もっと小さくなったアオイの肩を、ぽんと叩く。


「バカだよ、ほんと。……鏡を見てるみたいだ」

「え……?」

「アオイが、どれだけあいつのこと好きなのか。大事なのか。……ほんと、端から見たら馬鹿馬鹿しいけど」


 今度は、ぽんと頭を撫でてやる。


「ちゃんと、オレはわかってるからね」

「……ひなた」

「しょうがないもんね。こんなことでしか、あいつのこと守れないんだから」

「……っ」

「オレも、もっと早くに止めてあげたらよかった。そしたらもっと、アオイが傷つかずに済んだ」

「……そんなこと。ない……」

「ごめんね。首、痛かったでしょ」

「……ありがとう、ヒナタ」


 ぽんぽんと、撫でる手を止めようとせず、ただただアオイはオレに撫でられていた。


「……そしてごめん」

「ん? 何?」

「ぼ。暴走は、みんなに嫌われるようなことを言えば、……それでいいって、思ってたんだけど」

「言ったじゃん。嫌だったでしょ? みんなのこと嫌いなんかじゃないもんねアオイも」

「そ、それはね? そうなんだけども……」

「え」

「あの~……。そ、その~……」

「……もしかしてだけどさ。もしかしてアオイって……」

「…………」

「アキくんにあんなことしたの。もしかしてだけど……。アキくんのこと、好きなの?」

「……言い訳なんてしたくない。それに、ヒナタに嘘は言いたくない」