すべてはあの花のために❾


 みんなは、黙ったオレを不安そうに見ていた。


「こんなの、お礼でも何でもないし。そもそもお礼なんて、言われたくない」

「ひなクン……?」

「だから、こいつに聞かれた人が、やったってことにしておいてね」

「……どういう、ことよ」

「だから『誰が止めてくれたのか』って聞くから、絶対。聞かれた人が『やった』って言ってねってこと。オレはこいつ寝かせてくる。チカ、鍵ちょうだい。そのまま部屋帰る」

「え。お、オレの部屋……」

「は? ここじゃん」

「……はい。すみませんでした。どうぞ……」


 チカから鍵をもらって、あいつを抱え直す。


「それじゃあみんな、明日頑張って平静保ってね。おやすみ」


 オレはそれから自分の部屋を出て、あいつの部屋へと向かった。

 ヒナタたちが出ていった部屋では…………。


「あ、……あきクン。だ、大丈夫……?」

「あっく~……ん」

「あらあら。すっかり顔を覆ちゃって。アキー? どうだったのー? アオイちゃんとの深いやつはー?」

「……!? い。今は話しかけないでくれ……」


 すっかり顔を覆ってしまって、首をふるふる……と力なく振ってるアキラを心配してる奴らがいたり。


「あの子、どういうつもりなのかしら……」

「ほんと、ヒナタの奴、なんで黙ってろなんて……」

「……あいつなりの考えが、きっとあるのよ」

「紀紗、なんか知ってるの?」

「ヒナタもヒナタだけどよ。……あいつも、どうしたってんだよ」

「……何にもわからないわ」

「でも紀紗、アンタつらそうよ」

「おい。なんでそんな、お前が一番しんどそうなんだよ」


 そっとキサの背中を摩りながら、チカが少し俯いたキサの顔を覗き込むように見る。


「……何か、してあげられたらいいんだけど」

「何を……?」

「……ううん。なんでも、ない」

「キサ。なんか知ってんなら……」

「ううん。たとえあたしたちが何かをしたとしたって、本人が変わらなきゃダメなのよ」

「変わら、ないと……」

「(ツバサまで。一体何だってんだよ……)」


 葵のことを、ヒナタのことを気にしつつ。どこか苦しげなツバサを、キサを、チカも苦しげに見ていた――――。

 あおいを抱えたまま、鍵を抜き去って部屋を開ける。


「……はあ」


 ほんと、別にいいじゃんね。礼ぐらい受け取ればさ。


「でもできないよ。こんなことしといて。……あんたと一緒だよ」


 こんな最低野郎なんかに、こいつから優しい言葉なんか、掛けてもらうことなんて……。
 眠っているこいつを、そっとベッドへと寝かせる。


「時間は、……もうすぐ2時か」


 あおいは今眠っている。きっともうすぐ、アオイが起きる。それまでオレは、取り敢えず部屋でゆっくりさせてもらおう。


「欲求が爆発って言ってた。アオイの奴……」


 それはアキくんと、オウリの家で会った時。


「それにさっき、アキくんが好きって言って……」