すべてはあの花のために❾


「……あっちゃん。何があったのかな」

「あ。よかったねキサ、大きくなって」

「う、うるさい!」

「(ま、興味ないけどね)」


 でも、キサも不安そうにこいつのことを見ている。腕の中で小さく寝息を立ててるこいつは、何ともまあ無邪気なことで。


「(……人の気も知らないで)」


 もう一度抱え直して、みんなに話をする。


「こいつさ、多分嫌だと思うんだ。こんな変になったの、みんなにおかしな奴って思われるの」

「え? あっちゃん元からちょっとおかしいじゃん」


 そうだけど。いつものとはわけが違う。


「でもいつもとは違ってたでしょ? 多分だけど、思ってもないこと言ってたし、オレらにそんなこと言ったって知ったらこいつ、自分のこと責めると思うんだ」

「そうだね。あおいチャンは、人一倍他人を……おれらを大切に思ってくれてるからね」

「きっと嫌だろうね。あーちゃんがそんな風におれらのこと言ったって知ったら」

「……だからさ、あいつには今のこと黙っててやろうよ」

「そうだねー。俺もこんな話しちゃったら嫌でも思い出し――……い、嫌でも俺のムスコの命が危ないしね?」


 取り敢えずカナにひと睨み。勝手に思い出して顔赤くしてんじゃねえよ。


「まあ、もし覚えてたか、チカが言ったとして」

「何でオレなんだよ……」

「もしって言ったじゃん。あ、今日チカこの部屋で寝てね」

「なんでだよ!」

「は? お前が飲んだことないのにすればって言ったせいじゃん」

「え……」

「ていうかさ、元はと言えばチカがこいつにさっさと負けなかったのが悪い」

「え……」

「だから今回のこいつの暴走は、全部チカが原因」

「そ、……そうだったのか」

「(納得しちゃったんだけど……)」


 ま、なんとかチカは捻じ伏せられたけど。


「……アキくん」

「――……!!」


 こいつの顔を見た瞬間に顔を赤くする。……相当重傷だ。今回は、誰よりもアキくんが。


「……あの、アキくん」

「ちょ、……今。葵の姿見るだけでおかしくなる、から」

「(ダメだな、こりゃ)」


 きっとアキくんは明日一番平静でいられないだろう。


「……でももしかしたらまた、オウリの家の時みたいになるかもしれないから」

「……!! それは、……ダメだ」

「うん。もう嫌でしょ? こいつが、オレらの知らないところでどっか行っちゃうの」


 勝手に修行に行ったこいつのことを、みんな心配してたんだ。それだけ大事なんだよ、あおいのことが。
 でも、流石にアキくんがこの状態のままだと……。


「あいつにバレないことが一番だけど、アキくんこんな状態だし、もしあいつがさっきのことを覚えてたら、思い出したら……」

「……ど、どうするんだよ」

「え? どうもしないし。取り敢えず、話したらあいつ落ち込むだろうから、励ましてやればいいんじゃない?」

「雑ね……」

「あと、こいつのことオレが気絶させたって言わないでね」

「なんで?」

「面倒だから」

「ど、どうして? あっちゃんきっと、『変になったの止めてくれてありがとう』って言うよ?」


 ……だってオレは、気絶させないって言ったくせに、結局そうしたんだ。ほんと、最低なんだから。オレなんかに、お礼なんて言わなくていい。