太陽と月、そして星々。
 昔、日の本のとある場所で三つを統べる王がおりました。

 ある日王は、一人の美しい巫女に出会います。王は、一瞬で心を奪われてしまいました。

 来る日も来る日も、王はその巫女に愛を囁き続けます。
 役目を忘れ、民も見放し、己の欲を満たしたいがために、王はその巫女に求婚し続けました。


 そんな愚かな王に失望し、月の神は彼を見放すことにしました。
 月を亡くした王は我に返ります。己の役目を思い出し、すぐに亡くした代わりの月を探しました。

 そして、王は思い至ったのです。
 そうだ、その手があったではないかと。

 王は、直ちに使いをやりました。あの美しい巫女を、この国に迎え入れるためです。


「まるで月から舞い降りた姫のように美しく慈悲深い其方なら、きっとこの地をいつまでも美しく照らし続けてくれるであろう」


 そして王は、その美しい巫女をこの地へと縛り付けたのです。


「……神命の元、微力ながら月の光となれるよう尽力致しましょう」


 狂った王から、この地を守るため。これ以上の犠牲を出さぬために。
 美しい巫女は、愚かな王の命により、月を亡くしてしまった地の月の姫となりました。


 月の姫は、忽ち民たちに勇気と希望を与えました。
 悲しみに、苦しみに、もがき続ける民の手を、決して手放しはしなかったのです。


「姫様。この国の未来は明るいのでしょうか」


 不安に駆られる民には、心の目で見えたものを伝え。


「姫様。戦は。戦はまだ終わらないのでしょうか」


 恐怖に押し潰されそうな民には、心の耳に聞こえた、戦の終わる音を告げ。


「姫様。この想いは、抱えたまま私は生きていかねばならないのでしょうか」


 愛に苦しむ民には、伝えられないままでいる民の心を読み取り。


「姫様。やはりこの国は神に見放されたのです。貴方様もどうか、我々のことは気にせず、そのお力を、おやさしい心を、あたたかい手を、多くの人々に……」

「神はおります。いつまでも私たちのことを、見守ってくださいます」


 自分の身を案じ、慕ってくれる民には、その身に神を下ろし、神の御言葉を民たちに授けました。

 慈愛に満ち溢れたその姫に応えるよう、民たちもまた、姫を愛し続けました。


「ひめさま!」
「姫様ー!」
「ひーめさま」
「姫!」


 そしてその愛はいつしか寵愛へと変わり、民たちはその姫を崇め奉り始めます。
 姫の持つ力を、美しき御姿を、その体に流れている血を、……決して絶やさぬようにと。