「……あのね? ルニちゃん。わたし、あおいっていうの」
でも、そう言いながら話す彼女の姿が。あまりにも痛々しすぎて。声を掛けられなくて……。
「(……ゆうき、が……)」
言うつもりだった。オレが男だって。オレがルニだって。
「一番最初のお名前はね? 言えないの。……言っちゃったら。わたしは消えちゃうから」
……声が。出ない。足が。動かない。
オレはズルズルとまた木の陰に隠れて、彼女の見えないところで。声が辛うじて届くところで、動けなくなった。
「次の名前は、花咲って言うの。……ルニちゃん、覚えてるかな。下手くそって言った人。わたし、その人たちが大好きなの。わたしのこと、……多分、愛してくれてたから」
「(覚えてるし。会いに。行ったし。多分じゃないし。絶対そうだし)」
ただ、心の中で彼女に答えることしかできなくて。
「今の名前は、一応道明寺。道明寺 葵って、一応名乗ってるの。……でも、この名前は、わたしに用意してもらった名前じゃないの。だから学生証だって、パスポートだって偽物。こんなもの、わたしに必要ない。使っちゃ、いけないんだ……」
「(……はなっ……)」
「あの時。ルニちゃんにあおいっていうのだけでも伝えておけばよかったなって。……後悔してたの。一回でいい。……ううん。できればたくさん。呼んで欲しかった」
「(……オレだって。ヒナタって呼んで欲しかった。たくさん)」
「それから今は、高校に通ってるんだ~。学校って楽しいね。授業って、当てられたら。どきどきするね。……お友達。欲しいな……」
「(……学校。行ってなかったの……?)」
「……さっきね……? かわいい男の子。助けてきたの」
「(……うん。見てたよ。ばっちり動画にも収めた)」
「……っ。ごめん。るに、ちゃんっ……」
「(何が。ごめん……? 会えただけで。生きていてくれただけでオレは……)」
「痛かった。よねっ。……苦し、かったよねっ。ごめんっ。……ごめん。わたしと。……仲良くなったせいで……」
「(……はな? 一体誰のことを……)」
「……自分だけ。学校にも行ってっ。……ごめん」
もしかして。ヒイノさんの言ったことは……。
「るにちゃんを。……ころしちゃって。ごめんなさい……!」
「(……はな。それは……)」
やっぱりハルナの事件のことは、ハナが関係してるの……?
「……ルニちゃんに。言いたいこと、あったの……」
そう言ってハナが、叫び始めた。
「るにちゃんにっ。……あいたい!!」
「(……。っ、はなっ……)」
「るにちゃんに。だきしめてもらいたいっ……」
「(……。はなっ……)」
「るに。ちゃんの……。こえがっ。……ききたいっ」
「…………っ」
出そうと思った。出せると思った。
「るにちゃんのっ。えがおがみたい……!!」
「――!!」
…………え、がお……?



