すべてはあの花のために❽


「……ハナだ」

「……ん? どうかした日向?」


 あの頃と少し変わった。けれど面影がある。
 あっという間に立ち去ってしまった彼女を、今すぐにでも追いかけたかった。


「日向日向! さっきの動画! 撮ったんでしょう?」


 けど、捕まった。みんなに。


「(……まあ同じ制服っぽかったし、学校で会えるでしょ)」

「ん? どうしたの? さっきから」

「いや、別に」

「♪~♪」

「あれ? おうりがめちゃくちゃ嬉しそうな顔してる……」

「珍しいな」

「まあヒナタのこの楽しそうな顔も珍しいけどな」

「へえ。そんなこと言ってると、この間チカがマンガ見ながら泣いてた写真校内全員に配るから」

「なんでそんなの撮ってんだよ……!?」

「まあそれはそうと。……さっきのってー、多分道明寺さんだよねー」

「(道明寺。やっぱり……)」

「あの子って、確かお嬢様よね? どっちかって言うと大人しめな感じだったと思うけど……」

「(いや全然だし。めちゃ泣き虫だし。おかしいし)」

「え? お、おうり!? ちょっとー?!」


 そう思っていたら、なんだかオウリが嬉しそうな顔をしてどこかへ行ってしまった。


「(……あ。でもあの手の振り方は、また明日って言ってた)」


 みんなもそう思ったのか、今日はいいものを見させてもらったという感じで、みんなハナのことを口に出しながら帰った。


「オレも、今日は寄るとこあるからこっちから帰る」


 そしてみんなと別れて、急いであの花畑に行く。


「今日はいるっ。……絶対に。いるはずだっ」


 たとえ別居したって、母さんの中にオレがいなくなったって、毎日欠かさず、時間は短くても行ったんだ、あそこに。


「――っ、はな……!」


 急いで丘を駆け上がる。急いであの花畑に駆けて行く。


「はあ。はあ……」


 ……いた。あのちいさな、今にも泣き出してしまいそうな背中。


「…………っ、――――」


 声を掛けようと思った。