すべてはあの花のために❽


 2月後半。毎年その時期は母さんが一番暴れる。
 そりゃそうだ。だって大事な娘が死んだのも生まれたのもこの時期なんだから。


「母さん? 今日はご飯何にする?」

「…………」

「冷蔵庫の中見たら、餃子とかなら作れるかも。それでいい?」

「…………」

「ちょっと待っててね? すぐ作るから」


 ハルナと呼ばれるようになって、この時期は毎年休む。なんでか? そりゃ母さんが心配だから。
 でもそんなの建前。オレが一番、罪の意識が殺がれていくから。オレが、そうしたいからしてるんだ。


「はるちゃんはるちゃん。これ着てみて~?」

「(女物じゃん。母さんの服? これ……)」


 会話ができる時は、そんな風に話しかけたかと思ったら、人形のようにハルナにいろんなことをさせた。


「……これでいい?」

「うんうん! にあってるー!」


 まあね、小さい頃にやってるし。そんなに抵抗ありませんけど。


「……母さん。髪、染めようと思ってんだけど……」

「……? なんで~?」

「……太陽にさ、なりたくて」

「たいよう?」


 罪悪感でいっぱいの心を、唯一繋ぎ止めてくれていた。


「……っ、ハルナさ。お日様みたいでしょ?」

「おひさま……」


 どうしても。ハナの中にだけは、オレがいて欲しいんだ。
 ハルナじゃないオレが。いて欲しい。


「とってもいいと思うっ。とってもかわいくなるわ!」

「……そう? よかった」


 部屋は行ったり来たり。オレの本当の部屋には必ず鍵を閉めておく。じゃないと、オレの存在を見つけるだけで暴れ出すから。


「……ハナ」


 大事に持ってるあの絵本。それを見る度、罪悪感よりも寂しさが募る。


「……大丈夫? つらい思いしてない? 笑えてる……?」


 心配だった。いつだって。わからなかった。頑張って調べたって。


「……どうしたら、わかるのかな……」


 何もかもが、行き詰まった。
 いや。息が詰まった、かもしれないな。

 自分の大切な人を、もう苦しめたくなんてなかった。自分が、絶対になんとかしたいって思ってた。
 ……でも、気持ちだけじゃ何もなんない。どうやったって子どものオレには、……ここまでだ。


「……。はな。……っ」


 罪悪感の毎日。罪悪感が薄れる毎日。寂しさが募る毎日。オレの存在が消えていく毎日。
 ……徐々に、オレ自身も壊れはじめていった。