それから理事長に言われた通り、オレらはコズエ先生に事情を説明してカナの説得をお願いした。
「そういうことなら任せておいて」
そう言って、担任のコズエ先生は毎日のようにカナの家に行ってくれた。
みんなは任せきっていたけど、オレは自分の目で確かめたかったから、理事長に言われた通りカナの家の前で彼女の行動を見ていた。先生が肩を落として帰って行ったのを見届けて、またカナは入れてくれなかったんだな……と思い、オレも家に帰ろうとした。
「九条翼くんの弟の、日向くん。だよね?」
「……!!」
帰ったと思ったのに、何故か前からコズエ先生がオレに声を掛けてきた。
「私はまだ、君に信用してもらえないのかしら」
「……理事長から聞いたんですか」
「そうね。陽菜ちゃんの双子の日向くん?」
「……!! ……まあ、知ってますよね。小学校と繋がってるわけだし」
「残念だけれど、私が来たのは今年よ?」
「え」
「この学校の人からは聞いていないわ? でも知ってる。……それはどうしてか、あなたにわかる?」
「……理事長は、違いますね。どうしてですか」
オレが睨むようにそう聞くと、コズエ先生はにっこりと笑った。
「テレビでね!」
「え」
「あとは新聞とか? メディアで知ったのよ」
「そ、そうですか……」
確かに父さんのこともあるから、ハルナの事件は一時ニュースに上がったりもした。
「……そう。君はそれで納得してしまうのね」
「え」
そう言った先生の雰囲気が、ころっと変わった。いや、さっきからころころ変わり過ぎだ。
「あなたは、一体……」
「…………けてあげられなくて、ごめんなさい」
「は? 何か言いました?」
「もっと鍛えなさい」
「はい?」
「頭も。いろんなことに変換できるように、臨機応変に」
「へ?」
「人のことを疑ってかかりなさい。それでいい。自分の目で見たものだけを信じなさい」
「いやいや、どういうことですか……」
「大事なものを守るために。そして、……助けるために」
「……!!」
そう言って先生はふわりと笑った。
「君の目で見極めなさい。私が信用に値する人間なのかどうか」
「………………」
「信用できると思ったら、ここに連絡しなさい。あと、ここが私の住んでるところよ」
「え」
そう言って、颯爽と歩いて去って行ってしまった。
「(……流石に、小学生相手にあんなこと言ってもわかんないか)」
かつかつと、ヒールの音を響かせてコズエは道を歩いて行った。
「(……でも、あの子ならきっと何かを知ってるはずよ)」
――そして、それが救いになるはず。
「(だって、あの子が唯一笑えた場所を作ってくれた。……その子の双子の弟だもの)」
そう思っていたら、スマホが鳴った。
「(あら? 知らない番号……)」
もしかして……と思い、コズエは出てみた。
『個人情報ほいほい渡したらダメですよ、先生』
掛けてきたのは、さっきの男の子。
「(……やっぱり何か知ってそうね)」
この時はまだ、コズエは知らなかった。
その、涙を止めた本人がまだ、生きていることに――――。



