すべてはあの花のために❽


 それから、授業が早く終わるオレが理事長にそのことを相談することになった。
 っていうか、オレが行くって言った。人に任せておくと、ろくなことにならないから。

 みんなのことは別だけど、自分でやらないと気が済まないし、誰を信じるかは自分で見極めたい。


「……そうか。日向くんは人間不信なんだねえ……」

「いや、今その話してないですよね。信用できる大人の人を教えてくれって言ったんですけど」

「え? そうでしょ? 合ってるでしょ?」

「……はあ。もういいです」

「それで? どうしてそんなことを聞くのかな」

「………………」

「……彼の、担任の先生なんかどうだろう」

「え……?」


 そう言う理事長に、驚きが隠せない。


「圭撫くんも美作さんも、つらい思いをしてしまった」

「……どうして、知ってるんですか」


 まあ、きっと先生方は知ってたのかもしれないけど。


「ちょっといろいろ諸事情でね。……この件に関して、君たちはもう関わらない方がいい」

「……!!」


 真剣な瞳。こんな理事長、今まで見たことがない。


「あまりにも危険だ。それは、命にも関わるかもしれない」


 その言い回しに、どこか身に覚えがあって鳥肌が立つ。


「大丈夫だ。圭撫くんの担任の先生なら信用できるよ。絶対に」

「……そう、ですか……」

「ああ。事情は少し知っているから、彼女に相談してみてくれるかな」

「……はい」


 そう言われて出て行こうとしても、体が動かなかった。


「圭撫くんが、いつか救われた時」

「……え」

「君が知っていることを、彼の父親に話すといい」

「……どういう、ことですか」


 誰にも言っていないはずだ。なのに、なんで理事長はそんなことを……。


「……あるね、かわいそうな子のためなんだ」

「え?」

「ううん。なんでもないよ。でも、この件はもうその先生に任せなさい。大丈夫だから」

「……オレはまだ、その人が信用できるなんて思ってません」

「だいぶ歪んでるね~」

「知ってます」


 そう言うと、理事長は小さく笑った。


「大丈夫だ。と言っても信用してくれないのなら、君たちもその先生のことを見ているといい」

「はい……?」

「心配なら、後でもなんでもつけたらいいってことだよ」

「ストーカーじゃないですか……」

「でも信用できないんでしょう?」

「……わかりました」


 そう言うと、満足そうに笑った。


「……君も、つらかったね」

「え?」


 ぽんと頭に手を置いて、理事長はそんなことを言ってくる。


「君もいつか、救われる時が来るだろう。その時は必ず、味方になってあげてくれ」

「??」


 この時はまだ、理事長が何を言ってるのかはわからなかった。