カナに、初めての彼女ができた。幸せそうだった。いつも一緒で。ちょっと二人を見てただけで、あの頃のオレとハナのことを思い出したりしてた。
でも、ある時を境に彼女の態度が冷たくなって、カナと別れたいんだって言ったらしい。カナは、彼女がそれで幸せならって、別れたらしいんだけど……。
「……柚子、暴漢に遭ってたらしいわ」
ユズが転校していった日、とうとう女口調にまでなってしまったツバサからそう聞いた。
「は? ……それとユズが転校したの、関係あるんだね」
「柚子は、カナを守るために、黙ってそういうことをされたらしい。それから、……アタシたちは知らなかったけど、知ってる生徒とか近所の人とかはいたみたい。そのまわりからの視線が、柚子はつらかったらしいのよ」
「ユズ、何で誰にも……――!?」
ちょっと待って。まさか、これもハナが関係してるってことは……。
わからなかったけど、今警察なんて信じられないし……。
「誰にも言えなかったんだと思うわ。あんなことされて、人になんか言いたくないもの。……たとえ、味方になってくれそうな人にだって」
「でもそれをツバサが知ってるってことは、オレらのことは味方だと思ってくれてるってことだよね」
「自分はもう守ってあげられないから、守ってあげて欲しいって。勇気を出して教えてくれたの」
「ユズ……」
幸せだった二人を引き裂いた奴が、許せなかった。
「あの子のこと、ちゃんと見ててあげてたら……」
「それもマジ最低だけどさ、カナはそのこと知ってるの?」
「いいえ、知らないわ。柚子も、心配かけたくなくて。カナにはその話はしなかったみたい。最後まで」
「……そっか」
その気持ちはわからないでもないけど。でも、聞かされなかった方の気持ちもわかる。
「(……ハナ……)」
何があったんだよ。どうしてそんなに苦しいんだ。
いつだって思ってた。でも、いつだって聞けなかった。言ってくれるまで待とうって。……そう、思ってたから。
「まだ、このことカナは知らないんだよね」
「え? ええ、そうね」
でも、カナも知らなきゃいけない。
どうして彼女が別れようなんて言ったのか。どうして彼女が転校したのか。
……もうダメだ。そんなつらいことを、一人で抱え込んじゃ。ちゃんと、大事な人には知ってもらわないと。
「……ユズのこと、そんなふうにした奴とっちめよ」
「え?」
ハナ。キサ。
申し訳ないけど、先にすることができたから、ちょっと待っててね。終わったら、またすぐ調べてやるから。
「ちょ。……え? 日向?」
「取り敢えずあれかな。カナのことを狙ってるんなら、家のまわりとかにいたら犯人が来るかもね」
「え? ちょ、ちょっと……?」
「あ、でも犯人は必ず犯行現場に戻って来るって言うし、ユズから場所を聞いて、張り込みするのもいいか」
「いやいや! こんなこと、アタシたちが勝手に調べていいようなことじゃないんだから警察に」
「警察なんか当てになんない」
食い気味に言うオレに、ツバサが目を見開いている。
「警察がちゃんとしてたら、ハルナのことだってもう犯人捕まってる」
「……ひなた……」
「よっぽどオレらの方がしっかりしてるし、なんだかんだでみんな強いし頭いいし」
「…………」
「オレはする。もう誰も、つらい目に遭わせたくなんてないんだ」
そう言うオレの言葉で、ツバサの目に同じように火が灯っていく。
「オレらでとっちめよう。カナとユズのために」
「……そうだな。そうしよう」



