すべてはあの花のために❽


 家の中がごたついてて、調べるなんて時間はあまり取れなかった。毎日あそこには日が沈むまでいたし。帰ってきたら、宿題とか荷造りとか。ハナに関われる時間が、……前より少なくなっていった。


「うーん。やっぱり普通の財閥だし。会社だし……」


 でも、やっぱりハナのことになると時間を割いてしまい、寝る時間はだんだんと遅くなっていった。


「……オレ成長期なのに。ハナより身長低かったりしたら嫌だな……」


 誕生日プレゼントにパソコンを買ってもらって調べてみたけど、ネットの情報は嘘ばっかりだ。いいことしか書かれてない。


「……子どものオレができることなんて、こんなものか」


 悔しかった。刻一刻とハナの時間がなくなっている。あんなところ、今すぐにでも出してやりたいのに……。


「……取り敢えず、家はわかった」


 有名な家だ。しかもデカい。


「流石に、ずっとハナが出てくるのを待つのも難しいし……」


 それこそ完全なストーカーだ。ミズカさんと一緒になんてなりたくない。いや、下手したらミズカさんよりも質が悪い。


「……トーマなら、どうするのかな」


 トーマは小学校卒業と同時に、徳島の本家があるところへ戻されてしまったらしい。


「……何か、あったっぽいよな。トーマの家も」


 無理矢理のようだった。トーマの家族は納得してない感じだったし。


「それに、キサの方もか……」


 あいつのことも、何かあった時のためにオレが助けてあげようと思っていた。


「……でも、全然わかんねー……」


 完全に行き詰まっていた。調べたくったって、その方法がネット上だけじゃあ嘘だらけだ。


「日向。ちょっといいかー」


 そう言ってツバサがオレの部屋に入ってきた。


「何。どうしたの」


 ツバサはというと、ぱっと見女かと思うくらいには、オカマと化してきている。
 同じ血が流れてると思うと…………って、やったのはオレの方が早かった。そういえば。


「……俺さ、父さんに忘れてなんか欲しくないんだ」


 それはハルナのことだろう。まあ父さんは忘れてなんかいないけど。


「……それで?」

「父さんに、ちゃんと陽菜のこと。覚えておいてもらえるまで、俺はこの恰好やめないから」


 髪も伸ばし初め、少し化粧だって覚えはじめたツバサは、こっそり母さんの化粧道具をくすねてたっけ。


「ふーん。それで?」


 実際のところオレは手一杯だし、父さんだってちょっと頭冷やした方がいい。母さんに、あんな酷いこと言わなくったってよかったんだ。言われるべき相手は、……オレなんだから。


「こんな兄がいるって知られたら、お前も変な目で見られるかもしれないから……」


 ……なんだ。てっきりオレもオカマの恰好しろとか言われるのかと思ったじゃん。よかったー。


「別に? いいんじゃない? ツバサが好きなようにすれば」


 ツバサがそうなったのは、父さんが素直にならないからだ。ちゃんと、自分の気持ちを言えるようになって欲しい。


「(このままだと、ずっとオレらはこんな感じだ。母さんにもちゃんと素直に謝って欲しい。頼って欲しい。……お願いだから。責めるのはオレだけにしてよ)」

「え? ……いい、のか」

「うん。だって父さんが悪いし。オレは母さんのこと支えていってあげたいからさ。ツバサのこと、応援してるよ。ガンバッテー」


 ツバサもいつか気づけばいい。本当は父さんが、ハルナのことなんて忘れたいなんて思っていないこと。
 ……家族がこんなになったのは。オレのせいだってこと。

 誰も、オレのことだけは責めなかった。父さんは母さんとツバサを。母さんとツバサは父さんを。オレを庇ったなんて、目の前で見てた母さんも言わないし。
 腫れ物に扱うように。時々オレのことを見てくるみんなの視線が。……正直きつかった。


「(……だったらよっぽど。責められた方がいい)」


 空虚感でいっぱいだったはずのオレの心は。そんな気持ちが少しずつ蝕んでいった。