すべてはあの花のために❽


 それから二人と連絡先を交換して、帰宅をすることに。


「ありがとうございました。気づけてよかったです」

「こちらこそ。気づいてくれてよかったわ」


 ミズカさんはどうやら今から講師に出ないといけないみたいで、そこへ行くついでに駅まで送ってもらうことになった。


「ヒイノさん、これ。ハナがオレに託したメッセージなんです」

「え?」


 そう言ってオレは、絵本のページを捲る。


「多分ここ、あなたが書いた場所じゃないですよね」


 そう言って示したのは、歌詞らしきページの空白部分。


「え、……ええ。そうだけど。もしかして……」

「あとここも。見てください」


 そう言って出したのは、ハナがオレに会ってこれを渡すまでの、裏のページ。


「ひなたくん……」

「……オレ、相当捻くれた性格なんです」

「そうね」

「(……即答。まあいいけど)だから、どうしても泣いてるハナに声をかけてあげられなくて」

「…………」

「オレには姉がいたんです。双子の。……今は、オレを庇って空の上に行っちゃいましたけど」

「え?」

「姉は、オレとは違って元気で明るかったんで。……ただオレは、ハナの涙を止めたくて姉の姿を借りたんです」

「……あおいちゃんは、あなたのことを女の子だと思っているのね」

「はい。……次に会う時はちゃんと、オレが男だって言うつもりだったんですけど」

「……どういうこと」


 ヒイノさんが、眉に力を入れてオレを不安そうに見てくる。


「……最後に会ってから。もう一年が経ったんです」

「…………」

「話を聞いて。……もう。奪われたんじゃないかって」

「ひなたくん……」

「毎日行ったんです。姉のことがあって行けなかったけど、この本の表紙に『助けて』って書いてあったから」

「……うん」

「でも、ハナが来てくれることはなくて。それで……」

「ひなたくん。これはわたしの予想だけれど……」

「……?」

「どうか気を、悪くしないで欲しい。そしてあおいちゃんを救うことを、どうかやめないで欲しい」

「……どう、いう……」

「……あなたのお姉さん。いいえ。あなたを殺そうとしたのは、あおいちゃんが関係してるかもしれないわ」

「え……!」

「鵜呑みにはしないで。わたしの予想だし、外れてて欲しいって思ってる」

「……父が、姉の事故のことを調べてるんですけど……」

「え?」

「……危険なんだって、そう言ってたんです。もしかしたら繋がってるかもしれない。だったら余計、オレはハナを助けることを止めようなんて思いません」

「え。……ちょっと。あなたのお父様? 調べてるって。もしかして……」


 その時、ミズカさんが車を回してきてくれたみたいで、声が掛かった。


「……ヒイノさん。また連絡します」

「…………九条、冬青さんね」


 ヒイノさんには、小さく頷くだけにした。


「……ひなたくん。あおいちゃんの今の名字は、道明寺っていうの」

「え! ……やっぱりお金持ち……」

「でも、信じてるわ。あおいちゃんはまだ恐らく奪われてない。大人に……成人するまでまだ時間があるし、あの子は無理なんてしなくても、そこそこなんでもできる子に育ったもの」

「……オレも、信じます。ハナのこと。だから、……オレのこと。信じてください。ヒイノさん」

「もちろん。いつでも駒になるわ」

「はは。……それじゃあまた」


 そう言ってミズカさんの車に乗り込んで、オレは花咲家を後にした。



 残されたヒイノはと言うと……。


「……九条冬青。彼がバックについたなら、これ以上心強いことなんてないわ」


 評判のいい政治家だ。彼以上に国民を考えてくれている政治家などいない。


「きっと助けるわ、あおいちゃん。だから、……信じて待っていて」


 ヒイノの願いは白い息とともに出て、すぐに消えていった。