二人は目を点にしている。
……なんだ? まだ言ってやろうかこの野郎。
「……うん。あおいちゃんは全然異常じゃないわ」
「へ?」
「そうだな。あおいは正常だ。君に比べたら」
「どういう意味ですか!」
でも、どこか嬉しそうな顔になっていた。
「ひなたくんは、あおいちゃんのことが異常に好きなのね」
「そうだな。これは異常だ。あ、でもオレも異常か! ははは!」
なんか嫌だ、この人と一緒とか。
「……ありがとう。あおいちゃんのことを好きになってくれて」
「……別に、ヒイノさんにお礼を言われても嬉しくありません」
「まあそう言うなって。……あおいが絵本を渡したってことは、今いる家が危険だってことを理解したってことだな」
「……すみません。もう一回ちゃんと話してもらえますか、整理するんで」
それからやっと二人は、包み隠さず教えてくれた。
「……話をまとめると」
ハナの両親に一言物申そうとして、ハナのことを調べようと思った。でも自分たちには限界があったから、頼りになる金持ちの知り合いに頼んだ。
その知り合いがハナのことを気に入って、最終的に名前を調べる代わりに引き取りたいと申し出た。それはできないと言ったら、あの手この手といろいろ使われて、ハナを人質に取られた。
ハナはここに残りたいと言ってくれていたが、向こうの差し金で体をいいように使われた。ハナに自分たちのことを言ったら…………と脅されていたから、何もできずにただ見守っていたけど、ハナの方からここを出ていきたいと言われた。
すぐにハナの命は奪われないまでも、酷いことをされてしまうのを恐れ、その要求をのんで今の家に引き取らせた。
このままだったらハナの体がもう一人に奪われてしまうと思って名前を自分たちで調べようとしたが、今の家に阻まれ、そしてハナを人質にも取られてるので上手く動けない。
「だから自分たちが動けない代わりに、この絵本を使った」
「でもまさか、あなたのような子が来るとは思わなかったけれど」
「そうでしょうね。話を聞く限り本当に今ハナがいる家は危ない」
「……昔は、そんなことはなかったんだ」
「今ハナがいる家がですか?」
「ええ。とってもやさしくて家族思いの方だったの。どうしてああなってしまったのかはわからないけれど……」
……人の気持ちなんて、ころころ変わる。現に、今ウチがそうだ。あんなに、仲が良かったのに。
「わかりました。『赤い花』がもう一人のハナのことで合ってます?」
「ああ、そうだ」
「『黒い花』は、乗っ取られたあとってことですかね」
「うん。そうね」
「オレなんかに頼むってことは、もしかして誰が味方かどうかもわからないってことですか」
「……鋭いな、ひなたくん」
「そう。……あの家のバックには、政治家も警察もついているの」
「……どうしてそんなことを知ってるんですか?」
「そういうことを無理矢理された時に、相手が言っていたからよ」
「……すみません」
「君が謝る必要はない。オレらがもう少し違う方法を考えていたら、あおいも今苦しんでなかったかもしれないし」
「だからひなたくん。大人の味方がわからない中、あなたに渡したあおいちゃんはある意味正解だったのかもしれない。……わたしたちもできる限りのことはするわ。あなたの――駒になってあげる」
「(……この人たちは……)」
この話を、きっとハナから直接聞いたんだろう。それをきちんと受け止めて。茶化したりせずに、大切なハナを助けたいんだ。
「……わかりました」
オレだって、それは変わらない。ただハナを助けたい。それだけだ。
「使う時はとことん使います。お二人とも、オレの駒になる覚悟、しておいてくださいね」
「ああ。もちろんだ」
「大歓迎よ。あおいちゃんのためだもの」



