すべてはあの花のために❽


「……あの子の中に、もう一人棲んでいるの」


 いやいや、ハナの体は家じゃないし。


「もう一つの人格が、あの子の中にあるんだ」

「……え」

「見たことないのなら驚くのも無理はないだろうけど、……黒い部分は、そのことを言ったのかもしれないわ」

「え。……え?」

「もう一人の人格が現れると、凶暴になってよく暴れたもんだ」

「そうね」


 そう言って二人はまた、懐かしそうに昔を思い出してる目になってるけど。


「……つまり、二重人格ってことですか」


 信じられなかった。
 でも、絵本には自分のことが書かれてるんだと。そう言っていたんだ。それに、描いた本人がそう言って……。……あれ?


「あの、すみません。もしかして、ハナを拾って育てたのがお二人なんですか……?」

「あら? 言ってなかったかしら?」

「おお、すまんすまん」


 そうか。拾った人だから、あんなに詳しくハナのことを絵本に書けたんだ。納得。


「わかりました。でも、ハナの口からちゃんと聞かないと完全には信じられないので、すみません」


 軽く頭を下げると、また目を見開く。言いたいことがあるんならハッキリ言って欲しい。


「……あなたなら、絶対に大丈夫だわ」

「え?」

「そうだな。ひなたくんなら、絶対に救ってくれるだろう」

「え……?」


 真剣な顔をして、そんなことを言ってくる。その目があまりにも力強くて、上手く唾を飲み込めない。


「……隅々まで、あの絵本は読んだかしら」

「え? ……はい。大丈夫です。何度も読みました。表も、裏も、……隠れてたところも」

「そう。それはよかった。……それじゃあ、ひなたくん」

「君のような子どもに、大人のオレらが頼むのはおかしいことかもしれないが」

「え……」


 二人がオレに、同時に頭を下げてくる。


「え。ちょ、ちょっと……」

「……どうか、あおいちゃんを助けてあげて欲しいの」

「頼む」


 そう言って今度は土下座までしてきた。どうしろって言うんだ、この状況。


「あ、……頭を上げてください」

「「お願いします……!」」

「えー……」


 でも、そんなのもう、この絵本に気づいた時から。
 ……ううん。ハナを見つけたその時から決めていたことだ。


「……ヒイノさん、ミズカさん。オレは、ハナを助けるためにここまで来たんです。絶対に助けます。約束します」

「「……あり、がとう……」」


 ほんの少し涙声で、二人がそう言った。顔を上げてくれた二人にはやっぱり少し、涙が溜まっていた。