すべてはあの花のために❽


 それからまたみんなと遊ぶ時、トーマが約束通りカメラを持って来てくれた。


「え。おもちゃじゃない」

「え。おもちゃだと思ってたのかよ」


 トーマが持って来てくれたのは、普通に大人が使うようなデジカメだった。


「(……かっこいい)」


 子どもながらにして、そのデジカメのフォルムとかずっしりくる重量感とか、大人っぽくってうらやましくなった。


「すごいだろ。いっぱい撮ったから見てくれ」


 そう言われて、今までのフォルダを見せてもらった。


「――――」


 言葉が、出てこなかった。
 人が写ってても、笑ってなくても、後ろを向いてても、見切れてても。その中だけの世界が、そこにはあった。

 でも、トーマが撮ってたのは人だけじゃなかった。何の気なしに撮ったのだろう。信号機だったり、空だったり。ビル、夕日、虫、草花……。今まで、自分が見てきたことがないような世界がそこには広がっていた。


「どうだ? ひなた」


 オレが写真を見るスピードが、見る目が変わったのをちゃんとわかってるくせに、そんなことを言ってくる。


「……これ」

「ん?」


 オレはある写真に目を留める。それは、ここの花畑全体を、夕日をバックに撮っている写真だった。


「よく撮れてるだろ。自信作なんだ」

「……おれなら、もうちょっとうまくとれるし」


 こんなところで負けず嫌いが出てきてしまう。


「(……とーま、きづいてないのかな)」


 この写真。オレなら絶対、もう少し上手く撮れる自信はもちろんある。でも、オレの目に留まったのは……。


「(ここ、……ちっちゃいけど、女の子がうつってる)」


 夕日をメインに撮られたその写真。よくよく見ないと花畑だけかと思いがちだけど、小さく写真の端の方に、女の子らしき人が写ってるように見えた。


「(……これが俗にいう、しんれいしゃしんってやつかな)」


 絶対に撮ってやろ。それでチカを泣かせてやろ。
 また一つ、頭の中の計画リストに、このことが加わった。