すべてはあの花のために❽


「……え」


 ……あれ。こんなの。書いてあったっけ。


「……いや。ここは、空白だったはず……」


 ハッキリとは見えなかった。ただ、うっすら何かが書いてあるようで。


「……何? まだもしかして仕掛けがあるの?」


 それなら、わかってやろうじゃん。
 うっすら浮かび上がった文字だけを、白い息とともに声に出して読んでいく。



「……どうしてわたしは生まれてきたのかな……」


 ……え。


「……ずっとひとりぼっちなんていやだ……」


 ……は、はな……?


「……こんな道 進みたくなんて。ない。なんでこんなこと……。したくないよ……」


 ……はなの。くるしさが。


「……だめ。わたしはもう、汚いもの。わたしから。逃げて……」


 はなの。かなしさが……。


「……黒い花が咲いたらもう。……だからお願い。わたしに近寄らないで……」


 はなの。……つらさが。


「……でも。お願い。……わたしには。気づいて……」


 ……はなの。さみしさがっ。


「……枯れたくなんて。ない……」


 ……そうだね。この絵本は君だ。


「……わたしに、お日様を。返して……」


 見つけてあげるよ。君の、……お日様を。



「はあー……」


 読むだけで、胸が苦しかった。


「……また。気づいたよ。ハナ……」


 もしかして、全部の仕掛けがわかったらひょっこり現れてくれるかな。


「……たぶん、もう一つのページもかな……」


 わからなかったけど、そんな気がする。



「……あなたならきっと気づいてくれる……」


 ……うん。気づいたよ、ハナ。


「……ルニちゃん。助けて……」


 助けてやるよ、ハナ。絶対だ。


「……ずっとそばに。いてほしいの……」


 ……オレだって。そばにいたい。


「……冷たくなんて。なりたくないよ……」


 冷たく…………。
 ……っ、ハルナみたいになるってこと?


「……あなたはわたしだよ。あなたのなまえが。わたしのお花……」


 うん。向日葵はハナの花だ。それを、オレにくれた。


「……わたしの名前を呼んで……? じゃないとわたしは……」


 何度だって呼んだ。ハナ! ハナ! ……って。


「……信じてるから。ルニちゃん……」


 ……信じてて。ハナ。


「……大切なの。あなたが……」


 大切なハナを。
 オレが絶対に――……救ってみせる。