「今日も暑いね、ハナ」
あれからもう、女の恰好はやめた。
「オレさ、実は男なんだよね」
何が勇気だ。何が自信だ。
「気づいたよ、ハナ」
そんなの、君の涙が止まるなら。
「絶対助けるからね。ハナのこと」
どん底からだって、引っ張り出してやる。
流石に、学校がある日は朝からは来られなかった。でも、休日はカメラと絵本を持って、男の恰好で日が落ちるまでいた。
『……あたしね? 婚約者がいるの』
誰かなんて、教えてくれなかった。ただ、キクとチカとトーマが、苦しそうな顔をしていたのは覚えてる。
『……いいの、トーマ』
もちろんキクの気持ちも知ってる。それにキサの気持ちも。
言ってなくたってわかる。ハルナに、見方を教えてもらったんだから。
『……ダメだよなー。このままじゃ』
この時はまだ、知らなかった。てっきりキサが、『誰か知らない婚約者』に連れて行かれるのを、ダメだと言ったとばかり思っていたけど。
「涼しくなったね、ハナ」
ハルナのことがあって、まだ小4だったオレにもスマホを持たせてくれた。
「……もうちょっと早かったらさ、ハナの連絡先とか聞けたかも知れないのにね」
家の中は相変わらず騒がしい。それに、時々ツバサがおかしな行動をし出した。
「そしたらさ、次会う約束とか待ち合わせとかできたじゃん」
ま、口頭でだってできたけど。ハナが、いつ来られるかわからないからって。そう言ってたな。
「今さ。オレ、ちょっと……いや、だいぶ傷心中なんだよね」
ハナに会わなくなって、半年以上が経った。
「ちょっとさ、慰めてよ」
会いたいんだって。
「話、聞いて欲しいんだけど」
声、聞きたいんだって。
「上手く笑えないからさ。笑わせてよ」
笑顔、見たいんだって。
「……あとさ、言いたいことあるんだけど」
この、溢れ出る自分の気持ちを。
「大事な話、あるんだって」
聞いて欲しいんだ。君だけに。
「……また、冬が来るよ。ハナ」
毎日来るよ。君の大好きなお日様がいなくなるまで。
「……うっわ。さっむ……」
雪が積もってる日だって。
「今日も寒いね、ハナ」
花を覆い尽くす一面銀世界だって。
「もう一年が経つよ? 何やってんの」
こんなことしてる自分がバカらしくなったって。
「大事に持ってるよ。ハナの絵本」
さあ今日も読もう。君の大好きなお日様と一緒に――……。



