すべてはあの花のために❽


 それから、ハルナはいっつも楽しそうに笑ってた。オレもそれを見るだけで楽しかったし、居場所が増えただけで十分だった。
 ……たとえそれがモノクロだったとしても。オレは常にあいつと繋がってた。みんながいた。


 またみんなで、いつもの丘まで来て遊んでた。
 誰が植えてるのだろうか。誰が手入れをしているのかはわからない。いつ来ても綺麗な花が、辺り一面に広がっていたオレたちのお気に入りの場所。


「ひーなた」


 みんながはしゃぎまくってるのを遠目に見て、こいつらバカだとか思うのがオレの遊び方。今日もみんながバカしてるのを遠目に見てたら、トーマが声をかけてきた。


「なに? おれ、いまあたまの中でみんなのバカさをたのしんでたのに」

「え。なにしてんのおまえ。……それ楽しそうだな」


 意図せず仲間ゲット。トーマが史上最強の魔王と呼ばれるきっかけを作ったのは、もしかしたら自分かもしれない。


「おまえ、そんなことしてたんだな」

「ん? なにが?」


 一番最初にわかってくれたトーマは、よくオレに気がついてくれた。いや。もしかしたら、ハルナに何か言われてきてたのかもしれないけど。それでも、嬉しかった。


「おまえ、一人でいること多いから。遊びに来るのに、あんまり入ってこないし」

「だって、かんさつおもしろいじゃん」

「たしかに」


 ほら。またチカが変なことしてる。なに? 虫にも命があるんだ? そりゃそうだろ。やっぱチカはバカだ。


「人の観察もおもしろいんだな~」

「ん? も? ……なに。とーまなにかかんさつしてるの?」


 興味本位だった。オレよりも2つ年上のトーマが、どこかやっぱり落ち着いていて、かっこよかった。
 キクはだいぶ離れてるし、どこかだらしないからあんな奴にはならないように見本にはしてた。理事長は論外。


「俺な、最近カメラにハマってんだ」

「……しゃしん?」


 あんまり好きじゃないし、とにかく笑うのが苦手だった。笑えって言われたって、笑いたくないのにどうやればいいんだよって。そう思ってた。今でもそう。撮られるのは苦手だ。


「今度カメラ持って来てやるな? きっとおどろくぞ~」

「ただのカメラでしょ? ただのしゃしん。おれはみんなのかんさつでいそがしい」


 そんなことを言いながらも、トーマが撮った写真に少しだけ興味があった。


「そうかそうか。そんなに見たいか」

「だから、おれはいそがしいって」


 そう言ってるのに、楽しそうに笑うトーマに少し、自分が恥ずかしかった。なんでわかるんだろう。不思議だった。


「ひなたはカメラきらい?」

「すきでもきらいでもない」


 そんなの、きらいだ。笑わなかったら、困った顔されるんだから。


「なにも、カメラは人ばっかりを撮るものじゃない」

「え?」


 そう言うトーマは、どこか自信たっぷりな顔でこう言ったんだ。


「絶対カメラ好きになるよ、ひなたは」


 そんな根拠なんてどこにもない。でも、どこかそうなってしまうんじゃないかって。トーマの顔が、声が、言葉が、オレにそう響いてきた。