すべてはあの花のために❽


 それからは、よく覚えてない。誰かが呼んでくれた救急車に一緒に乗ったけど、もうハルナは冷たかった。
 あっという間に葬式も終わった。学校の先生も、クラスの子も来た。あとは……そうだな。【九条冬青の娘が死んだ】ってことで、報道陣が押し寄せたり、ニュースになったりしたかな。

 でも、そんなのもあっという間だ。……あっと。いう間だった。


「……。はる。ちゃん……」

「(かあさん……)」


 いつもハルナの部屋に入って、何時間も何時間も母さんは泣いてた。ツバサとオレは、そっとしておこうとそう決めた。


「……おまえ、だいじょうぶか」

「……なにが」


 あれからずっと、心の中が喪失感でいっぱいだった。何をしたって、この喪失感は拭えなかった。
 だって、生まれた時から……ううん。お腹の中にいる時から、一緒だったんだ。


「…………」


 どこか、心に穴がぽっかり空いた感じがした。どうやったって、この穴が埋まることなんてない。


「……ハルナの代わりには、なれないけどさ」


 そう言ってツバサが、ぽんと頭に手を置いてくる。


「何かあったら、俺が助けてやるからな」


 そう言ったツバサの目元は、赤かった。



「……はるな……」


 空虚感が拭えない。……ずっと。このままなんだろうか。


「……はるなの。へや……」


 亡霊のようにそこに行って。もう、誰もいない部屋で、一日を過ごすことが多かった。



 流石にそれも少し落ち着いた頃、父さんの仕事部屋に母さんがいるのを見つけた。


「かあさん……?」

「あ。……ひなちゃん」


 なんだか悲しそうにオレに笑いかけてきた。どうしたんだろう。


「……お父さんね? はるちゃんの事故のこと、調べてくれてるみたいなの」

「え……」


 ただの、交通事故じゃないってこと……?


「……なんだか、ちょっと危ないみたいなの」

「……つかまって。ないの……?」


 オレがそう聞くと、悔しそうに母さんの顔が歪む。……そうか。まだ犯人が見つかってないのか。


「……お父さんのこと、支えていってあげましょうね」

「……うん」


 そして、早く見つけて欲しかった。
 ハルナみたいになってしまう子が、なくなるように。