すべてはあの花のために❽


「あ! ひな~!」

「ひなちゃーん」

「え? ハルナ? 母さん?」


 遅かったからだろうか。向こうから二人がオレのことを迎えに来てくれた。

 普通に、歩いていた。歩道の中を。
 ちゃんと、……歩いてたんだ。


「――!! ひな! あぶないっ!!」

「……!?」

「ひなちゃんっ!!」


 ハルナが。母さんが。叫んだ。
 そのあとすぐオレの体は突き飛ばされ、ドンッ――と嫌な音が耳に入ってきた。

 ……痛みとか、わかんなかった。



「……は、るな……?」


 そこにはもう、車はなかった。


「はるな?」


 ただ、大量の赤を流し続ける。もう一人の、自分。


「はるなっ……!」


 母さんはもう、何が起こったのかわからないみたいで。呆然と目の前のことが信じられないかのように、頭を抱えていた。


「はるな! はるな。……おねがいッ。めを。あけて……っ」


 ……そうだ。救急車を呼ばないと。……あれ。オレ、電話。持ってない。……あれ……? 救急って。何番だっけ……。
 パニックだった。もう。どうしたらいいのかわからずにただただもう、ピクリともしないハルナの体に、……呼びかけていた。


「……たす。けて……」

「……。はるな……?」


 ちいさな、か細い声が聞こえた。


「はるな……? もうちょっと。がんばって……」

「……ひ。な……」

「ん……? なに……?」


 そっとハルナの口元に耳を寄せたあとすぐ、ハルナはもう、動かなくなった。