すべてはあの花のために❽


「え。……亡く、なった……?」


 小3の冬。両親がいるのにも関わらず、何故か祖母と暮らしていたチカの両親の訃報が届いた。
 チカはいつも寂しそうにしていたのに、葬式の間……ううん。オレらの前では、絶対に涙を流さなかった。

 それからというもの、みんなで遊ぶ気にもなれなかった。何故なら、チカが弱音を吐かなかったからだ。
 自分たちの前で我慢してる姿なんか、見たくなかった。まわりの奴らは、夜逃げみたいな恰好だったから捨てられたんだとか、そんなこと言ってたけど。オレらがそんなこと思うわけ、ないのに。


「(……よし決めた。絶対泣かす)」


 そしてその作戦にはハルナも加わった。なんて心強い。
 それから、チカを二人でリンチした。二人でリンチって言うのかどうかもわかんないけど。


「ちか。今すぐ泣かないと、ふじばあとちゅーしたって学校中に言いふらすから」

「……いや、ふつうにいやだわ……」

「じゃあじゃあ、この間みんなでお泊まりした時におねしょしたこと、言っちゃうぞー?」

「……いや。それも言うなや……」


 ダメだ。どうやら作戦失敗のようです。
 あれからチカは、全然覇気がなくって。いつもつらそうな顔をしてるのに、どこか我慢してる。


「………………あのさ」


 ちょっともう、我慢の限界。


桐矢(とうや)さんも純玲(すみれ)さんも、今ちかにそんな顔して欲しくないと思うんだけど」


 名前を出したら、ぴくっと反応する。


「そうそう。ちかがそんなだと、天国でゆっくりできないよー」

「それともなに。天国に行ってまで心配事増やす気? わー働かせるねー」

「あ! それじゃあ、閻魔大王にお給料もらわないとね!」

「そうだね。きっと結構お金もらえるんじゃない? よく働くねー二人とも」

「そうだねえ。大好きな息子のためだもん! 頑張って働かないとねえ!」

「そんな息子が天国に行っても働けって、相当なドSだね。オレより酷いんじゃない」


 そう言うとチカが、ザッと立ち上がる。


「……べつにおれは。二人に働いてほしいわけじゃないんだ」

「うん。知ってる」

「そうそう。ちゃんとわかってるよ」


 ぽろぽろと。……言葉とともに、あいつの目から涙が零れる。


「……はたらかなくても。いいから。……いっしょにっ。いたかったんだ」

「それも知ってる」

「そうそう~」

「……。さみ。しいんだっ……」

「はい、よく言えました」

「えらいえらい~」


 泣き始めたら、ずっと溜めてた気持ちも涙も吐き出した。


「……あり。がと。……っ」

「きも」

「きもーい」


 そう言うけどどこか嬉しそうに笑うチカに、オレらはほっとした。
 こいつのことも、これから助けてやろう。そう、……心に決めた。