すべてはあの花のために❽


「だからね? ひなはもうあたしじゃないから、あとは男の子だったんだっていうのだけ、教えてあげればいいんだよ」


 いとも簡単にそう言いますけどね。


「それが一番難関じゃん……」

「でもわかってたでしょ? 言ったでしょ? いつかは言わないといけないんだって」

「……うん」

「それが決まったんだよ。いつかが。……頑張れひな。あたしは、こればっかりは応援しかしてあげられないから」


 そう言ってオレの体をやさしく抱き締めてくれる。


「あー……。…………こわい」

「そうだね」

「こんなことなら。はるな。借りるんじゃなかった……」

「でも、それだと話せてなかったかもしれないよ?」


 確かに。そうかもしれない。初めは、なりきってたんだから。


「……入れかえっこ。言ったらやめるから」

「あれ? 言うからやめるんじゃなくて?」

「う、ん。……あそこに行くまでは。借りる」

「そうかそうか」


 そう言ってやさしく撫でてくれる手が。……あたたかかった。


「……つぎ、会ったら言うから」

「うん。それまであたし、貸してあげるね」


 怖かった。会えなくなるのが。
 ……でも、信じてる。ハナのこと。


「(大丈夫。……大丈夫)」


 いつも行く時は心にそう言ってた。
 言うのは怖かった。でも、どんな反応をするのかもちょっと楽しみだった。


「……ひな? あの子のこと、絶対大切にするんだよ?」


 わかってる。絶対大切にする。
 ……絶対涙、止めてあげるんだ。


「……助けてあげようね。涙、もう出ないように」


 うん。初めて会った時からそう思ってる。


「……助けてあげよ? 苦しいのからも、つらいのからも。悲しいのからも、寂しいのからも」


 うん。絶対に助ける。オレが、……絶対。

 ――ハナを助けてやるんだから。