すべてはあの花のために❽


「こっちがはるちゃん! そっちがひなくん!」


 それから大きくなっても、わかってくれる人なんていなかった。
 幼稚園に入ったら、ゲーム感覚のようにまわりの子たちからそんなこと頼んでもないのに、当てようとしてくる。


「ちがうよー。あたしがはるな。こっちがひなー」


 いつも答えを教えてあげるのはハルナだ。いっつも笑って、何度だって教えてやる。
 ……わかってる。ちゃんと見分けて欲しいって。ハルナがそう思ってたの、ちゃんとわかってた。


「やっぱりそっくり~!」

「わかんないねー」


 そう言って去る同じ組の子たち。その背中を、寂しそうにいつも見ていたのも知ってる。
 でも、それでもよかった。もうオレらのことを、ちゃんと家族はわかってくれる。それに、……オレがいる。ちゃんとわかってやる。

 寂しそうな顔のハルナの手を、そっと握る。ハルナもわかってるのか、にっこり笑ってくれる。


 お互いの居場所は、お互いの隣だった。常にそうだった。
 だから、そんな大切な場所が増えるなんて。思ってもみなかった。



「「ともだち……?」」

「そうなんだ。すごいいい奴らでさ」


 小学校に上がったツバサが、嬉しそうにそんなことを言っていた。


「つーにぃ、きもちわるい」

「え」

「つばさ、きもい」

「ええ!?」


 そんなオレたち双子は、だいぶ性格が捻くれた。その標的は最初は兄のツバサだった。
 しょんぼりする後ろ姿を見て、二人してクスクス笑う。


「つーにぃ、たのしそうだったね!」

「きもちわるいぐらいだったけどね」


 でも、そんな人たちに、会ってみたいって、そう思った。
 どこかで何か、予感してた。オレらの居場所に、なってくれるかもしれないって。
 二人して、ツバサの友だちに会うのが、楽しみになった。



 小学校に上がった。学校は桜ヶ丘。ツバサと同じ学校。
 それからすぐ、ツバサに紹介してもらった。


「あねのはるなです!」

「おとうとのひなた」


 そう言うと、物珍しいようにみんなはガン見してきた。最初のこの視線が、いつも嫌だった。
 でも、もうそんなのどうだっていい。こいつがいれば、オレはオレでいられる。他のことなんか、興味もない。

 ……でも、違った。オレらのことを、みんなの輪に入れてくれたみんなは、すぐに自分たちを見分けてくれた。
 一番最初にわかったのはトーマ。うれしかった。


 それから、みんなもだんだんわかってくれて、最後にわかったのはチカ。
 いじりの照準が、あいつに向いたのは、それがきっかけ。ハルナと二人で、いっつもチカをいじってた。よく泣かせて、ツバサにトーマに怒られたけど。
 アキくんにも一回だけシントさんを紹介してもらったな。あとカエデさん。あの二人も、多分何となくオレらの見分けがついてたっぽくって、ちょっとくすぐったかった。