すべてはあの花のために❽


「あら! はるちゃん? 大きくなったわね~」

「……おれ、ひなた、です」


 よく似過ぎている双子で、近所では有名だった。


「あら。……ごめんねえ? おばさんまた間違えちゃった」

「……いえ。いいんです」


 こんなの、もう慣れっこだ。……どうだっていい。


 夜中に生まれた双子の姉、陽菜。朝方に生まれた双子の弟、日向。
 オレらは常に一緒だった。生まれた時から、……ずっと。
 何を考えてるのかとか、大体わかるくらい。何かで繋がってるような、常にそんな感覚だった。


「はるちゃんは~、夜に生まれたから寒色系っ。ひなちゃんは~、朝に生まれたから暖色系~」

「おお! はるな、あお、すきー!!」

「……かんしょく? だんしょく? なにそれ」


 普通なら、女の子ならかわいらしい赤系の色で。男の子なら青系の色で、子どもの服とかも買ってくれるのに。
 母さんは、やっぱりどこか変わってた。でも話をする時、いっつも嬉しそうな顔をしてたから、なんだかそれがくすぐったかった。


「むか~しむかし。あるところに、とっても綺麗なお花畑がありました!」


 母さんは、よくオレらに絵本を読んでくれていた。ツバサと、ハルナと、オレと。母さんの足の間にオレが入って、両サイドにツバサとハルナが座る。
 なんでこんな立ち位置にいるかというと、だ。


「あー! おしっこ!」

「あらあら。じゃあつばちゃん、お願いね?」

「は~い」


 ハルナはいっつもうるさいぐらい元気で、とにかく落ち着きがなかったから。


 生まれた頃は、家族だって見分けられないくらい似てたらしい。
 元気いっぱいな方が陽菜。大人しい方が日向。見分けがつくまでは、家族もオレらの色や様子で見分けてた。

 最初からオレのことを、あいつのことをわかってあげられたのは自分たちだけだ。
 オレじゃない方がハルナ。ハルナじゃない方がオレ。
 唯一、オレがオレでいられる居場所は、昔からあいつの隣だけだった。


「ひなちゃん? 実はね、このお花畑には妖精さんがいるのよぉ」

「ふ~ん」


 それは、絵本には描かれていないこと。俗に言う、母さんの妄想だ。
 二人が帰ってきたらまた絵本を読んでくれるけれど、オレと二人っきりの時はこうやっていつも違う話を聞かせてくれた。


「それでねえ、実はその妖精さんは、妖精にされちゃったお城のお姫様なの~」

「……ふ、ふ~ん」

「それでねそれでね? そのお姫様はね~、お姫様に戻してくれた王子様と愛し合うのよー!」

「……ふ~ん」


 もはや、話が飛びすぎてわけがわからなかった。
 ま、母さんの妄想だからだけど。


「きっとね? ひなちゃんにもひなちゃんだけのお姫様が見つかると思うわ?」

「……ふ~ん」

「もしかしたら、お姫様じゃなくて妖精さんを見つけるかも知れないわね! そうしたらひなちゃん、王子様になって元に戻してあげなくちゃ!」

「……ふ~ん」

「お姫様と王子様が愛し合うなんて。……この絵本、とっても素敵なお話だわ! 憧れちゃう!」

「ふ、ふ~ん……」


 確か、この絵本は全然そんな話じゃなかった気がする。ただの、本当に母さんの頭の中での物語だ。
 子どもながらにもこの頃のオレは、妖精とかお姫様とか王子様とか。そんなの有り得ないって、そう思ってたと思う。

 ……この頃は、だけど。