すべてはあの花のために❽


 ……ちく。


「今は、女の子だと思ってもらえてるから話してくれるかもしれない」


 ……ちく。


「女の子だから、笑ってくれたかもしれないね」


 ……ちく。


「……でも、ほんとうにひなはそのままでいいの?」


 ……ちく。


「大きくなったら、もう女の子にはなれないよ」


 ……ちく。


「声だって低くなる。背だって大きくなる。体だって、……変わる」


 ……ちく。


「その勇気は、あたしは貸してあげられない。……ちゃんと、わかってるんだよね? ひなは」


 ――ちく。


 そう言ってくるハルナは、どこか悲しげだった。
 きっと気づいてる。そんな、わかってることに気づかない振りをしてきたこと。

 ……嫌だった。オレが男だってバレて、もう話してくれなかったら。笑って、……くれなかったら。


「……わかって。るし」

「うん」

「……わかって。る、し……」

「うん」

「……。わかって。るっ……」

「うん。……大丈夫だよ、ひな」


 膝を抱えて小さくなるオレをまた、ぎゅっと抱き締めてくれる。


「はああ……」

「だいじょうぶ。……あの子はひなのこと、男の子って知ったらもう会いに来ないような子?」

「……。わかん。ない」

「……ひなの話を聞いてたら、ぜったいにそんなことない子だなって思うよ」

「……。そんなのっ。わかんない、じゃん」

「そうだね! 勘だしね!」


 でも、そんなハルナの勘はよく当たる。


「……きらわれる、かな」

「きっと、どうして? って聞いてくるんじゃない?」

「……引かれたら。いやだ」

「逆に気になっちゃうんじゃないかな?」

「……もう。会えなくなったら。……いやだ」

「……うん。そうだね」

「笑わなくなったら。いや、だっ……」

「うん。だいじょうぶ。そんな子じゃないよ? だから、ひなもその子のこと信じてあげて?」


 信じる、……か。
 ……オレも、信じて欲しかった。

 だったら、オレからハナのこと信じようって。……そう思った。



 ハナに自分のことを話す勇気ができるまで。もう少し、ハルナを借りることにした。