すべてはあの花のために❽


「ひな~?」

「……なに」


 毎日のように、オレの部屋に来て報告を聞きに来る。


「どうかね? 聞けたかね?」


 勇気が出なくて名前が聞けなかったことを、ハルナは知ってる。


「……聞いた」

「おっ!」

「でも、言えないんだって」

「あ~そっかあ。残念だったね」


 がっかりするハルナだったけど、でもきっとオレしか、あの名前であの子を呼ぶことはないだろうから。……ちょっと嬉しかったりもする。


「ん? なになに~? なんかいいことあったんでしょー?」

「は? な、なんで……」

「顔に書いてある」

「(うそっ……!)」


 自分の顔をぺたぺたと触っていると、ハルナは笑い出した。


「(……むすっ)」

「あ。拗ねたー! ねえねえ、なにがあったの? 教えてよ~」


 そう聞いてくるけど、言わなかったことなんてなかった。
 言わなくても、何となくわかってるんだろうし……何より、自分のためにオレの恰好をしてくれていることに、感謝してるから。


「……名前。あだ名つけてあげた」

「おお! なんて?」


 ……言いたくない。


「……え。変な名前つけたんじゃないでしょうね、女の子に……」

「変……」


 じゃあ、ないと思うんだけど……。


「え。いやがってなかった? 大丈夫だった? その子」

「う、ん。……喜んでは、くれたけど」


 あれ。でも、最初渋ってたっけ。けど、最終的には笑ってくれたからいいや。


「ねえねえ~、教えてよお~」

「…………っ」

「あれ? 恥ずかしいの? ひな」

「……べつに」


 なんだ、これ。……あっつ。


「(あらあら。顔赤くなっちゃってまあ)」

「う、うるさいなっ」

「え? あたし、何も言ってないよ?」

「顔に書いてある」

「まじか~」


 流石双子だよね。ま、お互い様だ。


「…………………………はな」

「ん? ……ぽち」


 そう言って、オレの鼻をボタンを押すかのように人差し指で突いてきた。


「いやちがうし」

「ちゃんと言ってよ~……」


 オレは、恥ずかしかったけど。でも、こいつはきっと笑わないだろうからと思って、話してやった。


「ハナは、……こっちの花」


 そう言いながら、ハルナの手に漢字を書いてやる。


「あらま。かわいい名前つけてあげたんだね」

「……そう、かな」

「うん! ほんとに嬉しかったんだと思うよ? よかったね。喜んでもらえて」

「……うん」


 そっか。かわいい、か。……あの子に、ぴったりだ。