すべてはあの花のために❽


「ルニちゃん!」

「ん? なに?」


 呼んで。もっと。……もっと。


「わー! ルニちゃんっ!」

「……なあに? ハナちゃん」


 呼ばせて。もっと。……もっと。

 何度も何度も、お互いの名前を呼び合った。呼ぶ合う度に、ハナが笑顔になってくれるのがオレも嬉しかった。


「(……名前、呼んだだけなのに)」


 たった、それだけのことなのに。目の前の彼女は、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
 名前を呼ぶ度、呼ばれる度。胸が苦しくなった。あたたかく、なった。


「でも、なんでロシア語? ハナちゃん賢いんだね」

「あ。……あのね。ちょっとだけ、ロシアに行ってた時があったの」


 ろ、ロシア……? どこだっけ。あ。寒いとこか。
 家族で行ったのは、グアムってとことハワイだった気がする。でも、外国に行くのはお金がかかるんだってお父さん言ってた。だからオレの家は、年に一回ちょっとの間だけ遊びに行ってた。


「え? すごい。ハナちゃんのお家はお金持ち?」


 だから、きっとハナの家もそんな感じなんだろうなって思った。


「ま、まっさか~。た、たまたま、だよ??」

「(すごい動揺。お金持ちなのか。……だからテレビとかも見られないのかな)」


 もしかしたら、相当なお金持ちかも知れない。いや、きっとそうに違いない。


 帰る時間になる。その時がいつも、寂しかった。


「それじゃあまたね! ルニちゃん!」


 そう言ってくれるだけで、また会ってくれるんだって思えて。


「うん! じゃあねハナちゃん!」


 彼女が去って行く背中を、……見えなくなるまで見送り続けた。



「……もう、隠れてなくていいかな」


 いつもは、ハナが来てから出て行ってたけど。


「……うん。取り敢えず、もうこけないようにしてあげよう」


 そう思って、次からはあそこに出て待っておくことにした。
 ……でもそれが、あんな事故に繋がるなんて、思ってなかったけど。