すべてはあの花のために❽


「わたしが大好きなおひさまの、わたしのお花の名前。ヒマワリはロシア語で、パトソールニチニクって言うの」

「へ? ぱ、と……?」


 なんだそれ。聞いたことない。


「そこからとってルニちゃん。どうどう?」


 嬉しそうにハナがオレに聞いてくる。


「(……今ハナは、自分の花がヒマワリって言ったよね……)」

「……どう、かな……?」


 オレが何も言わなかったから、不安げにそう聞いてくる。
 そんなひとつひとつの仕草が、……かわいい。


「……ハナちゃんの名前はヒマワリ?」

「――……!!」


 オレがそう言うと、ビクッとハナが体を震わせた。


「ちがう? あ、そっか。言いたくないんだっけ」


 そうだ。なのに無理矢理聞いちゃったらいけないよね。
 そしたら「え。……な、なんで……?」って、ハナが聞いてくる。


「え? だって、自分のお花の名前なんでしょ? だから単純にそうかと思っただけ」


 ほんとに、単純にそう思っただけなんだけどな……。
 そう言うとハナは「……そ、か」と、ちょっとほっとしたような。……でも、どこか残念がってるような顔をした。


「(……どうしたんだろう……)」


 ハナの顔に、影が差す。ちょっと悲しそうな寂しそうな、そんな顔になる。


「(……何、考えてるのかな)」


 ハルナなら、ちょっとはわかるのに。目の前のハナの考えなんて、全然わからなかった。


「(……でも、そっか。おれが、おひさまか……)」


 ぽんぽん由来を言われても、よくわからなかった。


「(ハナの、大事な名前。……おれにくれた)」


 そう思うだけで、また胸がとくんと鳴った。


「そっか」

「ん? どうしたの……?」

「ううん。……そう呼んで? 嬉しかったから」


 嬉しかった。呼んで欲しかった。何度も。素直な言葉が、零れ落ちる。意識しなくても、勝手に顔が綻ぶ。


「え!? ほんと!?」

「うん」


 オレの、……素直な気持ち。


「ほんとにほんと!?」

「え。う、うん」


 え。何で疑われてるの。もしかして、本性が歪んだ奴だってバレたかな。
 まあそんなはずもなく、「ど、……どうしてうれしかったの……?」と、興味津々に聞いてきてくるハナに、本音を言うのはちょっと恥ずかしかったけど。


「は、……ハナちゃんの名前。くれた、から……」

「……!!」


 恥ずかしかった。けど。でも。これが本音。
 そう言ったら、今までで一番嬉しそうにハナが笑ってくれた。