すべてはあの花のために❽


 首を傾げていると彼女は……ハナは、ふんわりと笑って答えてくれた。


「あのね? あなたと初めて会った時、おひさまみたいだなって思ったの」

「え? お、おひさま? ……あ、あたしが?」


 オレが? そんなの、……有り得ない。
 だってオレは、陰だから。学校でだって言われてる。

 ハルナは元気。ヒナタは静か。ハルナは明るい。ヒナタは暗い。
 だから、言うなればハルナは『陽』。ヒナタは『陰』。それが、オレたち双子の『存在』だった。


「うん。……ちょうど見上げた時、おひさまが後ろだったから、とってもキラキラして見えたの!」

「そ、そう……」


 でも、ハナにそう言われて、どこか嬉しかった。オレのことを、誰か一人でも『陽』だと。思ってくれる人がいることに。


「わたしね? おひさまがだいすきなの」

「ふーん」


 とくんと、また胸が鳴る。
 ハナが、オレのことをおひさまみたいって言ってくれるだけで。おひさまが、大好きだって言ってくれるだけで。

 胸が、いっぱいになる。


「……でもいま、自分のおひさま、無くなっちゃってて」

「え? ……ど、どういうこと?」


 意味が、わからなかった。
 自分のおひさまにもだけど、……無くした?


「(……だから、泣いてるのかな……)」


 そう思ったけど、ハナが苦笑いしか返してくれなかった。


「ちょっと、わけがあってね? ……ヒマワリって、太陽の花でしょ?」

「え? (話が飛ぶなあ……)」

「ヒマワリはわたしのお花なの」

「??」


 確かにハナは、花のお姫様だけど。


「でも、おひさま無くなっちゃったから。お花、咲かないの」

「……よく、わかんない」


 ぽろっと出てしまう。だって、……全然わからない。
 確かに、花はおひさまの下で咲くけど。どうして、無くしちゃったんだろう。

 眉に力を入れて悩んでいるオレに、ハナは「ごめんね」と謝ってくる。


「(なんでハナがあやまるの? あやまる必要なんか、どこにもないのに……)」


 でもそのあと、小さく笑って話してくれる。


「おひさまみたいなあなたに、わたしのお花の名前をあげたいの」


 おひさまみたい、……か。


「(……うれ、しい……)」


 そう思ってくれることもだけど、ハナの花の名前を。……多分だけど、大事なものをくれたことが。