すべてはあの花のために❽


 いい案を思いついたと思って、手をぽんっと合わせる。


「だったら、ハナちゃんって呼ぶ」

「え……?」

「(うんうん。我ながらいい名前をつけてあげられた)」


 だって君は、花の妖精さんだから。だって君は、花のお姫様だから。


「ど、どうしてハナ……?」

「だって、いっつもお花に囲まれるから。だから、ハナちゃん?」


 だって、いつも花たちが嬉しそうだもん。


「……はな、ちゃん」


 ……あれ。いや、だったかな。だったら……そうだな。


「違うのだったら、泣き虫があるよ?」


 そう言ったら「ぜひハナでお願いしたい……」なんて言ってくるけど。


「(……だって、オレの中の君は、『花』と『なみだ』のイメージなんだ)」


 自分の引き出しの数の少なさに落ち込む。


「……いや、だった……?」

「え? ううん! 嬉しい!」


 あ。わらった。……よかっ――。


「あなたは? なんて呼んだらいい?」


 あ。……どう、しよう。
 今の自分はハルナだ。……ヒナタじゃない。


「(それに、……ひなたって言ったら男の子ってバレるかもしれない……)」


 だって男の子って〇〇タって、多いし。バレるのは、怖かった。
 後々よく考えたら、女の子でも全然いける名前だったけど。


「(……はるなだから、一緒にいてくれるのかもしれない)」


 ちくりと、胸が痛んだ。どうしてかわからなかったけど。


「……もしかして。あなたも言えないの……?」

「……うん。ごめん」


 ほんとは、呼んでみて欲しかった。
 君の、……ハナの綺麗な声で。オレの名前。……本当の、名前。


「いいよ? ……だったら、なんて呼んだらいいかな?」

「……? 何でもいいよ? ハナちゃんが好きなように呼んで?」


 今のオレは、偽物だから。
 ヒナタじゃない。でも、完全にハルナでもない。
 だったら君に、今のオレの名前をつけて欲しい。


「……じゃあ、サンちゃんなんてどう?」

「え。……テレビに出てきそうな芸人さんみたい……」

「え? そうなの?」

「知らないの?」

「うん。あんまりテレビとか、見たことってなくって」

「……そうなんだ」


 そんなことを知れるだけで、嬉しかった。


「(……でも、テレビ見たことないって……)」


 一体どんな家に住んでるんだろうって、興味が湧いた。


「……じゃあ、ルニちゃんってどうかな?」

「……え?」


 る。……るに? な、なぜに……?


「いやだった? だったら違うので……」

「ううん。嫌じゃないんだけど……ルニ? なんでそんな名前にしたの?」


 どうしてそんなのをいきなり、ぽーんと出してきたんだろう。