すべてはあの花のために❽


「ひーなっ」

「うわっ!」


 部屋に帰ってくるなり抱きつかれた。また後頭部強打したんだけど。


「……っ、つ~……」

「よかったね!」


 まだ何も言ってないのにそう言ってくる当たり、何があったとかもうわかってるんだろうなって思った。


「……うん。行けた。その子のとこまで」

「それから?」


 なんでわかってるくせに聞いてくるんだろう。……っ、ちょっと。照れくさい。


「……話は、言いたくないみたいで。ずっと、気持ちだけ声に出してた」

「……そうなんだあ」

「……最初は、スッキリしなかったみたいなんだけど。スッキリするまで言ったら? って言ったら。……笑いだした」

「え。そ、そう……」

「……声、聞けたんだ」

「……うん。よかったね」

「……っ、わらって。くれたんだ」

「うんうん。……ね? 言ったでしょ? ひなならできるって」


 でも、それはきっとハルナを借りたからだ。オレだったら、絶対に無理だった。


「そうかそうか。お話できてよかったね」

「……うん。うれし、かった」


 素直にそう言うオレに、一瞬目を見開いてたけど、嬉しそうに微笑んでくれた。


「そっか~。……その子、なんていう子なの?」

「え?」

「え? ……ひ、ひな? その子の名前は……?」

「…………」

「……聞けなかった? 教えてくれなかった?」

「…………」

「……わすれてたな?」


 目が泳いでいるオレに、ハルナが笑い出した。


「ちょっと、聞けなかったんだしっ」

「いやわかるからっ。ははっ!!」


 しょうがないじゃん。だって、そんなの聞くの忘れるくらい……。


「うれしかったんだね、ひな」

「……っ」


 そう。……それから、見惚れてた。
 かわいくて、綺麗に涙を流している、ちょっと面白いあの子に。


「……次、会う約束してきた」

「おお! そっか! それならよかったね!」

「……次。名前、聞く」

「そうしなそうしな」


 いつか、なんて。そんな約束はしなかった。だから、いつ彼女に会えるかわからない。


「(……あの子に。会いたい)」


 それから毎日行った。でも、その子も毎日来るわけじゃなくって不定期。
 それでも、その子が来る時は必ず会いたかった。来ない日は、……ちょっと寂しかったけど。来た時は、嬉しかった。

 それ以上に、毎日が。……楽しみで仕方なくて。
 何も色がついてなかった毎日に。オレの世界に。どんどん、色がついていった。