すべてはあの花のために❽


 ……そう思っていた時。隣から笑いを含んだ声が、聞こえはじめた。


「(……え……?)」


 泣いていた。それはもうぽろぽろと。こぼれ落ちるくらい。
 ……でも。笑ってた。その綺麗な顔に。……見惚れた。


「禿げっ。ケバ嬢っ。……ははっ」

「(だれのこと?)」


 一体誰のことだろうか。そう思ったけど。


「(わらった。……わらって、くれた……)」


 嬉しかった。ほんと、今まで生きてきた中で一番だ。
 お腹を抱えながら、目元に涙の雫を付けて笑っている彼女を見て、オレは自然と頬が緩んだ。


「やっと笑った」

「え……?」


 嬉しい。……笑顔。見られた。
 ぽろぽろと、自分が思ってることが、素直に零れ出す。こんな自分、初めてだ。


「すごくきれいでかわいかったから。笑った顔が、早く見たかったの」

「え。……わ、わたしなんか。きれいじゃないし。かわいくなんか。ないよ。……あ、あなたの方が、とってもかわいいよ?」


 え。そんなわけないじゃん。ていうか、嬉しくないし。


「(それに。……おれは。ゆがみきってる……)」


 自分を。真っ黒な影で。覆い尽くしてる。


「……かわいくなんか、ないよ。だって。……あたしは。汚いもん。真っ黒、だもん……」


 よっぽど君の方が。…………かわいい。


「そんなことないよ? 黒くてとってもきれい。……あなたよりもわたしの方が、もう真っ黒だよ。汚れちゃってる」


 ……黒い? ああ、髪の毛のことか。
 でも、君の方が、その髪の毛でさえ綺麗だ。


「あなたはきれいだよ!!」

「いやあなたの方が!!」


 そんな言い合いをしていて、だんだんおかしくなってしまった。


「(……あ。もうそろそろちかが泣く……)」


 かくれんぼの時間切れだ。


「あ。そろそろ行かないと」

「え……」

「(……ほんとは、もうちょっと一緒にいたいけど……)」


 早く帰ってこいって言われた。みんなが、心配するのも嫌だから。


「今、友達と遊んでるの。それから今脱出してきたから、時間かせぎもきっとここまでが限界」

「え……?」


 涙。……止められた。
 声も。……聞けた。
 笑顔も。……見られた。


「(……でも、もっとしりたい)」


 この子がどうして泣いてるのか。もう、泣かないで済むように。
 オレが。……助けてあげたい。


「……また、会える?」

「え……」


 でも、彼女は会ってくれないかもしれない。そんな不安が、言葉になって溢れる。


「……また。会ってくれる……?」


 え。……会って。くれるの……?
 ……嬉しかった。言葉が。出ないくらい。

 不安そうに聞いてくる彼女に、オレは小さく頷くので精一杯だった。


「……それ、あげる」

「え?」


 なんだこれ。……なんだこれっ。


「(うれしい。……うれしいっ!)」


 それは彼女にあげよう。お花の妖精さん。
 ……ううん。お花の、お姫様に。


 ここに来る前の足取りとは全然違う。軽い。体も。心も。


「忘れないでね? また会って?」

「……っ、うん! 約束だよ!」

「(うわっ。『また』って。『約束』って)」


 嬉しかった。もう、どうやって表現したらいいかわからないくらい。はしゃぎまくってる。


「(……はるな。おれ。できた……!)」


 まずは、ちゃんと報告しなくちゃ。