すべてはあの花のために❽


「……あの子、今日は来るかな……」


 そう思って木の陰に隠れて待っていたら、また凄まじい勢いの砂煙を巻き上げて、何かが走ってきた。


「来た……!」


 相変わらず、止まり方はあれらしい。
 ……痛くないのかな。あれ? もしかして、ここに来てこけて、痛くて泣いてたのかな、ずっと。

 的なことを考えていたら、また女の子の体が小さくなって、震えていて。綺麗な涙も、流れ落ちる。



「…………」


 動かない、足が。
 どうしよう。……どうしよう、どうしようっ……!

 動けない間も、女の子はずっと涙を流している。
 止められるのか? 本当に? オレが。あの子の涙を……?
 話を、聞いてあげられるのか? 声を、聞けるのか? 笑わせて。あげられるのか?

 捻くれまくってる。オレが。



『あんたは。あたしだ!』

「――!!」


 ハルナ。…………っ、勇気、借りるから。

 今、オレはハルナだ。大丈夫。
 すっと気持ちを切り替える。そうしたら、足だって動いた。


「(……あ。な、なんて声かけよう……)」


 体は動いたものの、そんなこと考えてなかった。
 でも、その子の前に行ったら、すんなり言葉が浮かんだ。



「どうしたの?」

『きっと、その子にあったら勝手に言葉とか出てくるよ』


 ハルナの言う通りだ。勝手に出てきた。

 まずは、……そう。彼女の話を、聞くことにしよう。